カテゴリー「SF」の記事

2017年8月13日 (日)

ドイツ語多読本: Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania

ローダンNEO第2巻、翻訳より一足先に。

電子書籍の原書はもちろん日本語版より安い。もちろん読むのは翻訳のほうが楽だけど。

Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania

40000語
表紙は第1巻に続き、宇宙船アエトロン? それとも艦載小型艇のほうか? 


翻訳は予約受付中(8/24発売)

日本語版の表紙は第1巻に続いて人物。たぶんアルコン人のトーラ。今後ヒロイン的な役割でも担うことになるのだろうか? 今のところ地球人など下等生物としか思っていないようだが。


この巻では、月から地球に戻ったローダンたちの動向、それと、第1巻と同じように、もう一つの話が並行して、交互に語られていく。

地球で病気の治療ができる、とアルコン人クレストを連れて、地球に戻ったローダン。ゴビ砂漠に着陸して、アルコンのテクノロジーを使って周囲にシールドを張る。そこを包囲し、爆撃する中国軍のBai Jun将軍。シールドは破れないものの、そこから出ることもできず、アルコン人クレストの病状は悪化していく・・・。

もう一つのストーリーは前巻で登場したアメリカ国土安全保障省のエージェント、アラン・マーカントの逃亡劇。地球に帰還するスターダストを撃ち落とそうとする国土安全保障省を裏切り、追われる身になったマーカント、逃げる途中で出会ったトラックの女運転手とのドラマがあり、スターダストがゴビ砂漠に着陸したニュースを知ると・・・。そして、ラストに第1巻のジョン・マーシャル、シドのストーリーにつながる人物が登場して、続きの展開が気になるところで第2巻終了。

日本語版第1巻の解説で、「次巻では"ローダン無双"が展開するはず、個人的には序盤最大の見せ場のひとつと思っている」とあったので期待して読んでみたが、いや、ローダンは砂漠でシールドにこもっているだけだったし・・・。ようやくラストで、周囲のジャミング装置を破壊、全世界に向けて大胆な宣言をしたので、大きなドラマ展開があるのは、この次の巻以降じゃなかろうか・・・。

それにしても、ローダンは、人間よりもはるかに文明が進んでいるアルコン人と堂々とわたり合って、巧みな駆け引きで地球への帰還も果たしたわけだが、考えてみれば、口八丁で相手の弱みにつけ込んでいるだけ(その超テクノロジーを使って協力してくれないと、クレストの病気は直せないぞ)とも言えなくもないな、今のところ。

次巻以降は読むとしたらもう翻訳でいいかな。ドイツ語で読むのは翻訳の出ていない本にしたいし。

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2017年8月10日 (木)

ドイツ語多読本: Perry Rhodan Neo 1: Sternenstaub

時代を2036年に移したペリー・ローダンの新シリーズ、Perry Rhodan NEOの翻訳が刊行開始されたので、記念に原書を読んでみた。

とりあえず第1期のVision Terrania編8冊の翻訳が7月から毎月1冊ずつ出るらしい。ドイツではNEOのほうもすで150冊以上出ていている。隔週で新しい巻が出るので、翻訳が追いつくことはないだろう。


Perry Rhodan Neo 1: Sternenstaub

48000語

オリジナルの『ペリー・ローダン』シリーズは知らないので、どこまでオリジナルをなぞっているのかよくわからないが、オリジナルへのオマージュでありつつも、新要素、新展開があるのだろう。

月面ステーションとの通信が途絶えたので、その救出に向かうローダンら4人の宇宙飛行士たち。だが、実は月で発見された未確認の人工物の調査が隠された目的。打ち上げ失敗続きの危なっかしいNOVAロケットで一か八かの出発をするスターダスト号、月に着いたと思ったら、いきなり攻撃を受け不時着、攻撃の出どころにたどり着くと例の人工物、超テクノロジーを持った異星人との交渉に臨むローダン・・・と、ハラハラドキドキの展開。おまけに、超テクノロジーを持った異星人への恐怖、またその技術によって力のバランスが崩れる懸念を抱いた、アメリカをはじめとする大国の思惑も絡んできて・・・。まあ、とにかくローダン大活躍。

そんなローダン側のストーリーとは別に、もうひとつ地球での話があって、ローダン側の話と交互に語られていく。それはストリート・チルドレンを保護する施設の話。施設の責任者のジョン・マーシャル視点から描かれる。施設で暮らすシド少年とスターダスト号打ち上げを見る場面からはじまるが、このシド少年が奇妙な能力を持つらしく、その能力を使って資金難に陥った施設を救おうとしたために・・・という話。

この2つのストーリーがどう結びつくのかは、第1巻では不明のまま。でも、次の"Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania"を読んでみたら、この巻の最後でようやくつながりが少し見えてきた。安心を。


翻訳はこちら

ドイツ語オリジナルの表紙は月で発見された異星人の宇宙船アエトロン号か。日本語訳はローダンの半身を正面から描いていて、対照的。

ドイツ語原文を読んだ感じと翻訳で違和感があるものかどうか、興味本位で翻訳も読んでみた。

翻訳は読みやすいと思ったが、ローダンと相棒のブルの言葉遣いが対等でないところには違和感があるかも。ブルはローダンに対して「です・ます」、ローダンはブルに対して「だ・である」で話しかける。アメリカ人だし、年は1歳しか違わず、テストパイロット時代からの親友らしいし、もっと対等な口のききかたをする感じで読んでいた。それとも、階級は少佐と大尉で違いがあり、ローダンは船長なので、身分の差を気にする日本人の感性にはそのほうがいいのか。

一文一文照らしあわせて読むなんて面倒なことはしていないが、読みやすさ・わかりやすさを考慮してか、少し変えている個所はありそう。
たとえば、冒頭部分は"Er lächelte ..."(「彼は笑顔を作った」)を何度も繰り返しているが、翻訳では繰り返しを省略している。原文はたぶんわざと繰り返してレトリック的な効果を狙っているのだと思うが、翻訳はそれより簡潔な表現を求めたのかもしれない。
また、細部のアイテムの変更っぽいものもあるようだ。スターダスト打ち上げの時にシドは自作の宇宙服を着ていけず、それっぽく見せようとしてかChromstreifen(クロームの金筋?テープ? ストライプ状ものの気がする)を上着にくっつけていたが、翻訳ではそれが金属のバッジになっていたりする。
とはいえ、物語の本質に関わらない細部だし、翻訳だけ読むならとくに違和感を感じることもないだろう。訳文は読みやすいと思ったが、感じ方には個人差があるだろうから、まあ人それぞれか。

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2017年5月28日 (日)

ドイツ語多読本: Michael K. Iwoleit: Das Netz des Geächteten

2017年ドイツSF大賞、ドイツ語ベスト短編受賞作。

ゲームをテーマにしたSFアンソロジーに収録されている。Kindle版が見つかったので読んだ。

拡張現実のネットに繋がることが日常化している世界、ゲーム中毒の男の話。

Gamer所収

Das Netz des Geächtetenは9400語程度。

タイトルは「追放された者たちのネット」ぐらいの意味。

アルコールやドラッグやらの更生プログラムにあるような、依存症患者のミーティングの場面が冒頭。たがいに自分の体験を告白しあうみたいなやつ。それに参加しなければならなくなった主人公。何の依存症かというとゲーム。ゲームに熱中するあまり、人のアカウントを乗っ取り、金を盗んだりして、裁判所にネットからの強制ログアウト、二年間のネット接続禁止、更生プログラムへの参加を命じられている。

で、同じ参加者の一人が話しかけてきて、海賊版ネットがあると言う。HUD(ヘッドアップディスプレイ)のプロセッサを使ったやつだろ、あんなもの使えないと答える主人公だが、その男は100ペタフロップ相当の巨大並行マルチプロセッサが頭の中にあるだろ、と言って主人公に生体チップを渡す。主人公はそんな怪しげなものを使う気にならないが、ゲームに没入していた時のプラッシュバックに苦しめられ、思わずその生体チップのインプラントに手を出してしまう・・・というストーリー。

拡張現実がごく当たり前の世界。去年話題になったポケモンGOも拡張現実だろうが、この話ではスマートグラスのようなメガネか何かで拡張現実を体験しているらしい。外を見れば、アニメーション化されたロゴや広告、イフォメーションのバナーやフィード、交通標識などなどが外の風景と一緒に視界に現れる。それだけなく、拡張現実で自分の容姿にもいろいろ手を加えたりと、生の現実を直接見ることがほとんどないらしい。主人公は拡張現実がない世界のことは親の世代の話でしか知らないという。

ネットから追放されるというのは、つまり何の美化も施されない生の薄汚れた世界で生活するということ。そのうちに生体チップの効果が現れ始め、最初は視界のぎりぎり外側で何か動いた気がするが、そのうち線やら立方体やら円柱やら幾何学模様が見え、しだいに建築物の形をなしていく。現実の町に重なりあうようにして、もうひとつの町が現出していく。実際に町を歩き回りながらゲームにのめり込んでいく主人公・・・。

その拡張現実を知覚していく描写が個人的には新鮮でおもしろかった。
そして、きれいに伏線を回収しつつ、「追放された者たちのネット」を利用しているように思わせながら実は・・・というラストもきれいに決まった読み応えのある短編。


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2017年5月23日 (火)

ドイツ語多読本: Marc Elsberg: Helix - Sie werden uns ersetzen

Elsbergの"Helix"をようやく読んだ。前作"Zero"は読んだので、去年出た時に買っていたもの。

これで3作目らしいが、前2作はどちらも翻訳されているので(『ブラック・アウト』『ゼロ』)、これもひょっとしたら翻訳されるのかもしれない。ドイツ語の普通の発音では「エルスベルク」じゃないかと思うが、翻訳本では「エルスベルグ」になっている。人名なのでよくはわからないが・・・。

この人はおそらく話題のテクノロジーを取り上げ、サスペンスに仕立てる感じの作風が売り。
今回はタイトルの「螺旋」からも推測できるように、DNA、遺伝子の操作、ゲノム編集が人間、社会にもたらすものは・・・?

今年、SFのラスヴィッツ賞の長編部門にもノミネートされていている。2017年ドイツSF大賞にもノミネートされていたが、受賞は逃している。

Marc Elsberg: Helix - Sie werden uns ersetzen

130,000語

前作ではアメリカ大統領をドローンで追いかけ回し、それをネット中継するという派手な出だしで、読者を話に引き込んでいったが、今回もやり方は同じ。ミュンヒェン訪問中のアメリカの外相が演説中か何かに突然倒れる。慌てて駆け寄るボディガードたち、パニックになる会場。

検死解剖してみると、心臓になぜかドクロマークが浮き上がるという謎。ホワイトハウスのアドバイザー・チームの女性に事件究明が命じられる。死因はどうやらウィルスによるものらしく、感染経路を辿って行くと・・・。これが主要な筋の一つ目。

これと並行して、アフリカのタンザニアでは、害虫と干ばつの被害が広がる中、なぜか健康なトウモロコシが育つ場所が見つかる。どうやらドローンらしきものが何かを散布しているらしい。品種改良した種やら殺虫剤を売りつけて金儲けしているバイオ企業にとっては、そんなことをされては商売上がったり。というわけで、誰がそんなことをしているのか、追求を始めるバイオ企業の暗躍がもう一つの主要な筋。

さらに、不妊治療を受けている病院で、不妊治療どころか赤ん坊の健康、容姿や知能までも自由にできるデザインできるところがある、と教えられる夫婦。これが主要な筋の三つ目。半信半疑ながらも、行き先がわからないように窓の外が見えないようにしたチャーター機に乗り込む夫婦・・・。

さらにもう一つの筋では、飛び級で大学に入学、容姿もモデル並みの女の子、いつもボディガードを連れている、というより見張られている様子。その女の子がボディガードの目を盗み、失踪。それを必死に探しだそうとする母親(?)には何か特別なわけがありそう・・・。

もちろん、これらの話はつながり合っていて・・・という話。

ゲノム編集によってピンポイントで遺伝子を改変することができるようになり、それによって難病の治療が可能になったり、病気や環境の変化に強い植物を作ったり、肉が多くとれる動物・魚を作ったり、と様々な恩恵がもたらされると同時に、遺伝子を永続的に変えてしまうことの倫理的問題、さらにはデザイナー・ベビーのような、かつての優生学的発想の問題も想起させられる。もちろんそこには金の臭いがプンプンするわけで、利権やビジネスも巻き込んだ、おもしろいストーリーが展開できそうなテーマであることは確か。

ドイツ語で読む人向けにコメントしておくと、短い章で区切りながら、いくつかの筋を並行して追っていくので、続きが気になってテンポよく飽きずに読める。文章もエンターティメント小説なので平易だろう。




以下はネタバレを含んでいるので、出るかどうかわからないが翻訳を待っている人、ドイツ語で読む人は注意。

現在ゲノム編集でどこまでできるのかよくわからないが、デザイナー・ベビーがすでに存在していたら・・・というのがこの小説。10歳ですでに20歳の容貌だったり、身体能力が人間離れしていたり、知能も一般の大人以上、というか専門的な科学者以上、そんな子供たち・・・。そして、盛大にネタバレすると、事件を引き起こしたのは、デザイナー・ベビーのプロトタイプとも呼ばれる男の子と女の子の二人(10歳)。ウィルスを作ってアメリカの外相を殺したのも、タンザニアで無償で改変トウモロコシを提供していたのものも、デザイナー・ベビー研究を主導しているのも、実はこの二人・・・。

それがわかった時点で、小説としてもありえない絵空事と切り捨てる人も出てきそうな気はする。だが、彼らがそういう行動に出た理由は? そういうデザイナー・ベビーから見た視点が存在することが、この小説のおもしろいところでもある。デザイナー・ベビーのようなものを生み出していいのかどうか人はいろいろ論議するかもしれないが、まだ存在もしていないデザイナー・ベビーの側から人間、世界を見るという発想はしなさそうだから。そこがこの小説のSF的なところかもしれない。SFの賞にノミネートされているのもそれなりに納得できる。

SF的な設定に拒否反応を起こす人もいるだろうし、また逆に、SFだったらもっと先の遺伝子操作なんか当たり前の世界も描いてしまうから、SFだと思って読むと物足りなさが残るかもしれない。が、現代のテクノロジーがもたらす可能性と問題を提起しながら、それをサスペンス仕立てのエンターテイメント小説にまとめ上げているのは間違いない。


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2017年2月27日 (月)

ドイツ語多読本: Andreas Brandhorst: Das Schiff

2016年ドイツSF大賞ベストドイツ語長編
http://www.dsfp.de/preistraeger/2016-2/laudatio-2016-bester-deutschsprachiger-roman
2016年クルト・ラスヴィッツ賞ベストドイツ語長編
http://www.kurd-lasswitz-preis.de/2016/KLP_2016_Bester_Roman_Laudatio.htm
のダブル受賞作。

Andreas Brandhorst: Das Schiff

130,000語


6000年後、想像したって仕方がないそんな遠い未来を舞台にできるのはSFならでは。

その頃、人間は不死を手に入れている。それは地下に広がるAIの集合体「クラスター」のおかげ。人間をはるかに超えるスピードで進化したAIには不死治療すら可能。人は30歳になると不死の治療を受け、その後は老いも病気も知らず、すべてをクラスターにまかせて、永遠の命を楽しむだけ。ただし気候変動で水面は上昇、全人口は400万人に減少。

そんな世界で主人公Adamは不死になれなかった男。ごくまれに発現する「オメガ因子」、それを持つ人間に不死治療はできない。30歳で自分もその一人だと知ったAdamもすでに92歳。外部骨格的な機械を装備しないと外出もままならない。もしくは肉体を生命維持装置に入れて、Faktotumと呼ばれる義体に精神転送して動きまわるか。そんな死を目前にしたAdamにもやれることがある。それは地球の外、宇宙に飛び出していくこと。

もちろん老いた肉体で宇宙に行くのではない。クラスターは無数のゾンデを宇宙に送り出し、1000光年先にまで到達している。ゾンデが行き着いた星は地球と量子リンクで結ばれ、精神を転送できる。そこでは最長1000年かけてゾンデによって運ばれた義体が精神を待ち受けているという仕組み。もちろん量子の絡み合いを利用するのでリンクは光速の制限を受けない。それを使って地球の外に出ていけるのは、Adamのように不死になれなかった人間だけ。彼らはMindtalkerと呼ばれる。地球に131人しかいない。不死を得た人間は地球に縛りつけられる。

クラスターがMindtalkerたちを宇宙に送り出すのは、かつて高度文明を作り上げたMuriahの遺産を探しているから。Muriahは「カスケード」というネットワークを宇宙に張り巡らし、銀河間の物理的な移動すら自由にできるほどだった。1000光年先にゾンデを送るのに1000年かかるクラスターなど足元にも及ばない。ところが、宇宙の高度文明をいくつも滅亡させた「宇宙炎上」を境に、Muriahは姿を消してしまった。それが100万年前の話。

そんなわけで、今回の行き先はCygnus 29だと告げるのは、クラスターの数ある人格の一つBartholomäus。Adamの教育係で、人型の「アバター」に身を包んで登場する。文明の跡を示すオベリスクと宇宙船らしきアーティファクトが見つかったのだ、という。若い頃からの知り合いで、かつてはいっしょに暮らしていたこともあるRebeccaと調査に出かけるが、謎の宇宙船が出現、攻撃を受ける。現地のAIやクラスターの制止を振りきって、Rebeccaを救いに行くAdam、どうにか彼女の義体の頭と胴体を抱えて地球に緊急帰還する。

これが事の始まりだが、ストーリー展開がおもしろくなっていくのは、クラスターに対する疑惑が生まれてから。謎の女性がAdamに接触してきて、「オメガ因子など存在しない」と言う。つまりクラスターは人間を欺いているのだと。Adamは最初それを信じないが、疑いを深めていく。クラスターは何を隠しているのか、Adamは何に巻き込まれているのか? 

と、不死になったらどうなんだろう、人工知能の進化の先には何があるのだろうなどと考えさせられつつも、先が気になってページをめくってしまう。とくにクラスターの意図がわかった後の展開はスリリング。最後にはMuriahや「宇宙炎上」の謎、Cygnus 29で攻撃してきた未知の宇宙船の謎もすべて繋がり合っていたことがわかる、練り上げられたプロット。安心して楽しめると思う。


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2017年1月17日 (火)

ドイツ語多読本: Karsten Kruschel: Was geschieht dem Licht am Ende des Tunnels

ドイツSF大賞のベスト短編を紹介したので、同じくSFのKurd Laßwitz賞のほうも。
2016年のドイツ語ベスト短編。

Kurd Laßwitz Preis  2016 Beste deutschsprachige SF-Erzählung

これも電子書籍で読める。紙の本しかなかったら読まなかっただろう。
NOVA Science Fiction Magazin 23: Themenausgabe Musik und Science Fiction

これに収録。

NOVAは半年に一度出ているドイツ語の短編SFのアンソロジー、ということのようだ。
この号は「音楽とSF」というテーマで統一しているが、巻頭言にはテーマ設定をしたのはひさしぶりだとあったので、普段はただの短編アンソロジーなのだろう。ドイツSF大賞ベスト短編が掲載されていたphantastisch!は、出版の動向やら作家のインタビューやら、ハーラン・エリスンの特集記事などがあって、雑誌だったが、こちらは定期刊行のアンソロジー、あくまでも作品メインのようだ。

受賞作の"Was geschieht dem Licht am Ende des Tunnels"は、SF怪奇譚みたいな感じか。
語数は1万語を越える程度の分量。

表題にトンネルとあるが、道路や鉄道のトンネルではなく、坑道。ただし掘るのはゴミの山。廃物が積み重なり、層となった地面に縦穴を掘り、さらにいろいろな深さで横穴を掘っていく。採掘場の周りでは、掘り出された廃棄物から金属やプラスチック類を抽出する工場が煙を吐く。つまり、資源が枯渇した未来の話。

主人公はそんな採掘場の坑夫。冒頭の場面も坑道の中。もちろん資源探しが仕事だが、主人公にはもうひとつ目的がある。それは昔のCD、できればレコードの発掘。この場面でも、見つけたCDにテスターをあてて再生してみたりしている。すると、何か視界をよぎるものがある。いっしょに坑道に入っているパートナーの女性を見ると、彼女も見たらしく「手だ」と言う。そして、なぜか英語で何かを口走る。何を言ったのか聞き返してみるが、彼女は何も答えない。それで得体の知れない恐怖を感じつつ坑道を後にする・・・。

そんな冒頭だが、この女性が口走った英語に注がついていて、Tear For Fearsの"Mad World"の歌詞の一節だと読者にはわかる仕組み。音楽とSFというテーマに合わせた趣向なのだろう。不可解な現象が起こるときに主人公の直接頭の中に響いてきたりと、重要なポイントでいろいろな歌が出てくる。古くは1960年代から2006年あたりまでの歌、十数曲。

その後、主人公は別のパートナーと組んでお宝を発見。その坑道の採掘権を主張、会社に認めさせる。ところが、冒頭場面でいっしょに坑道に入っていた女性がやってきて、あの坑道を会社は放棄するのだと言う。どんな機械を使ってもマッピングできない異常な地域にあるため危険だからだと。そして、これから主人公が入ろうとしている坑道も同じ地域にあるのだ、と警告する。もちろん主人公は聞く耳を持たず、問題の坑道に入っていく。そこで目にするのは・・・?

そんな感じの話だが、不可解な現象を説明する理屈がないので、SFというよりは怪奇譚というか怪異譚というか。用途もわからなくなってしまった機械の残骸や数知れない廃物が積み重なり、押し潰された闇の中を穴を掘って進んでいく、そんないかにもな舞台に出現する不可解な出来事。それは音楽の亡霊か何かなのか?? 随所に現れる歌は闇の中の不可解なものからのメッセージとも読めるようになっている。

状況の異常さや恐怖感、その場の緊迫感などはあらすじの説明では伝わらない。それは描かれる細部に宿るものだろうから。

2つのSF賞のベスト短編を紹介したが、長編はドイツSF大賞もラスヴィッツ賞も2016年は同じ作品が受賞。Andreas Brandhorstの"Das Schiff"。最初のほうを少し読んだかぎりではおもしろそうだが、今は中断。長編はできるだけ一気に読まないとダメなんだよなあ・・・。


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2017年1月11日 (水)

ドイツ語多読本: Frank Böhmert: Operation Gnadenakt

2016年ドイツSF大賞(Der Deutsche Science-Fiction-Preis)、ドイツ語ベスト短編受賞作。

Laudatio 2016 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte

"phantastisch! "という雑誌の57号に収録。電子版があったので読んでみた。

phantastisch! Ausgabe 57 (1/2015)

買ってから見つけたのだが、全編掲載しているサイトがあった。
TOR ONLINE: "Operation Gnadenakt (Frank Böhmert)"

ショート・ショート的な長さ。2ページ程度か。まあ、雑誌自体350円ぐらいだったしいいか。他の記事もあるし。

時は2033年。アメリカ大統領が定例の国防省長官との会談時に、"Gnadenakt"プロジエクトについて教えろ、と言う。前大統領からの引き継ぎの手紙に、奈落の底ばかり見て暗鬱になり、まともに未来を見られなくなったら、国防長官に聞いてみろとあったのだ・・・。
それに対して国防長官が言うには、それは最後の最後、藁にもすがる気持ちになった時にしか頼ってはいけないと、手紙にありませんでしたか、軍の頂点にいる大統領であっても知らなくて済むこともあるんですよ、と。

そんなふうに気を持たせてから語られる”Operation Gnadenakt"とは?
Gnadenaktは普通は恩赦とか大赦とか訳されるもの。で、誰に対するGnadenaktかというとヒトラー。つまりヒトラーは生き続けている。死を免れるんだから"Gnadenakt"というわけだが・・・。

当時のトルーマン大統領とその側近は死ぬだけでは罪の償いには足りない、比類のない罪には比類のない処罰を、と考えてヒトラーを生かし続けることにする。アメリカ最先端の医療技術を投入し、生かし続けること98年、今ではヒトラーの年齢は150歳にもなる。もちろん、たとえば延々と拷問を繰り返してやろうなどと考えて生かし続けているのではない・・・。

そんな感じの話。
罪に見合った正当な処罰を与え、正義を行なっているのだという側が、罰を受けるべき非道な悪の側とやっていることは同じになっている、そんな皮肉なのか、これは? そんな疑問符つきの感想にしかならないので、自分で読んで判断してください。

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2016年3月 3日 (木)

ドイツ語多読本: Tom Hillenbrand: Drohnenland

2015年のLaßwitz賞ドイツ語長編部門の受賞作。
http://www.kurd-lasswitz-preis.de/2015/KLP_2015_Bester_Roman_Laudatio.htm

読もう読もうと思っていたら、いつのまにか翻訳が出ていて、ちょっと驚いた。が、グラウザー賞受賞作とあって、なるほどミステリだからか・・・と思い直す。ドイツのSFの賞なんか取ったって、日本語に訳されるとは思えないから。

というわけで、近未来を舞台にしたSFミステリ。読んだ感じだとミステリ要素のほうが強いかな。もともとミステリの作家のようだし。

残念ながら、日本から電子書籍版は買えないので、紙の本。
Tom Hillenbrand: Drohnenland

94000語

エンターテイメントなので、文章は平易で読みやすい。
主人公視点の一人称小説。主人公はなにやらハンフリー・ボガード好きらしい。ハードボイルド小説というのは一人称でないと格好がつかないらしいのだが、それを意識しての一人称? あと、文章がすべて現在形なのもそれと関係ある?

でも、映画が3Dどころか360度パノラマになっている近未来、ボギーのポスターを自分のオフィスに貼っているのはどういうつもりなんだろう、主人公40代後半、刑事(男)? ただのレトロな趣味ならいいが、たまに「ボギーがこっちを見てやがる」的なことを思ったりするのは、ちょっと恥ずかしい気がしないでもない。でも、相手がEU議会の大物だろうが大企業のトップだろうが、堂々とわたり合って捜査を進めていく姿はハードボイドなのかもしれない。たまに皮肉なセリフを漏らしたりもする。データを一週間もこねくり回してようやく被害者の性別がわかるのが検死官だ、とか。

一言で近未来と言ってもわからないだろうから、少し説明。
アラブは核で汚染されているらしく、アフリカでは太陽光発電をめぐって紛争、アメリカは没落し、波力発電でポルトガルが興隆。そして、気候変動か何かでオランダや北ドイツは海に水没、主な舞台のブリュッセルはずっと雨ばかり降る・・・。

テクノロジーは進歩していて、車は自動運転、口で命令すればOK。フロントガラスはモニタに早変わりして、警察のコンピュータと通信できたり。モニタといえば、いろんなものがモニタになってネットにつながるといっていいくらい。店のテーブルもそうだし、着ている服、さらにはスプレイで壁に噴射したらモニタになる、なんてのまで。それから、メガネもネットとつながって、データを表示したり記録したり。

警察小説なので捜査テクノロジーも見所。ユーロポールの捜査コンピュータTEREISIAS(通称Terry)は「ミラースペース」なる仮想世界を作って、事件現場を視覚や聴覚だけでなく、触覚や味覚も含む全感覚で再現。刑事はそこに潜って現場をリプレイ、被害者が銃で撃たれる瞬間を、脇に立って見ていたりすることもできる。EUの諜報機関が持っているコンピュータはさらに高性能で、過去の再現ではなくリアルタイムで「ミラースペース」を作ることができる。だからたとえば、テロリストのアジトをライブで「ミラーリング」、その「ミラースペース」に捜査員を送り込み、そこから敵に姿を見られずにリアル世界の突入部隊を先導させる、なんてことも可能。その上、捜査コンピュータは過去や現在を再現するだけでなく、人の未来の行動予測までする。Aさんがいつ何々をする確率は〇〇パーセント、みたいに。

そんなことが可能なのはそれだけの膨大なデータがあるから。で、そのデータを集めているのが、一般の監視カメラは言うまでもなく、いろんなドローン。Kolibri(ハチドリ)とかMolly(分子何とかの略)とか、Mite(ダニサイズ?)なんてのもある。というわけで、タイトルは"Drohnenland"(翻訳では『ドローンランド』)か。

こんなSF的な舞台設定で、SF的ガジェットを駆使して行われる捜査やアクション・シーン自体が興味深く、スリリングな読みどころではあるが、話はミステリの枠をきっちり踏まえた感じで、ミステリ読者も安心な展開と言えそう。まあ、SF読者よりミステリ読者のほうが圧倒的に多いだろうし・・・。

殺人事件が発生、刑事が捜査に乗り出していって・・・という、いかにもミステリな発端。
イギリスのEU離脱を決めるには憲法改正が必要、というので、その投票を間近に控えた頃、EU議会の議員が射殺される。捜査にあたるのが主人公Westerhuizen、ユーロポールの主任警部。もちろん捜査にはコンピュータTerryの行動予測やミラーリングが活躍するが、そこにはコンピュータ分析官Avaの存在も不可欠(後に人間不要の自律型の次世代Terryも登場するが・・・)。主人公と若い女性分析官のコンビで事件を追うという筋立て。

近未来のハイテク利用を除けば、きわめてオーソドックスな展開。現場検証をして、被害者の自宅を家宅捜索、被害者の関係者の証言を取り・・・と、こんな感じで手がかりを探し、推理。また、被害者がEU議会の議員だけあって、政治的なネゴシエーションがあったりもする・・・。

結局、コンピュータが割り出した容疑者が犯人だろうということになるが、逮捕時にドローンが暴走、容疑者は死亡・・・。とりあえずは一件落着したかに見えるが、もちろん本当の話はここから始まる。

主人公がライブのミラーリングを行った際、本来ありえないことだが何者かがミラースペースに侵入して、メッセージらしきものを残していた。それ自体が謎だが、そのメッセージをたどると、他にもEU議員が死亡していることがわかる。事故死とされているが、ひょっとして・・・? さらに、そこから浮かび上がる、TalConという企業の存在(上述のデータ・メガネなどを作っている企業)・・・。

さらに、殺された議員の殺人現場にもう一度行ってみると、犯人が発砲したはずの場所(ミラースペースで弾道を見て確認した)がそもそも存在しない。つまり、ミラースペース自体が改ざんされていた・・・・。

ユーロポールのデータ改ざんと、ここまでくると、ちょっとやばそうな陰謀の匂いがしてくる。実際、主人公は命を狙われ・・・・と、あとは真相があきらかになるまでのスリリングな展開が待っているのみ。

翻訳まで読んでいないが、これ。
トム・ヒレンブラント:ドローンランド


それにしても、2015年はドイツSF大賞のほうも、取ったのはSF作家じゃないみたいだし(「Markus Orths: Alpha & Omega. Apokalypse für Anfänger」)、どういうことなんだろう。
2作を較べれば、ただのSFホラ話とも取れなくもない、"Alpha & Omega"のほうが型破りなおもしろさがある。ミステリって結局、事件が起こって、それが解決されるという結末は決まっていて、その意味では先がわかりきった話だし(読んでいる間はもちろんおもしろい)。

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2015年11月23日 (月)

2015年ドイツSF大賞受賞作: Markus Orths: Alpha & Omega. Apokalypse für Anfänger

2015年ドイツSF大賞の国内ベスト長編。
http://www.dsfp.de/preistraeger/2015-2/laudatio-2015-bester-deutschsprachiger-roman

Markus Orths: Alpha & Omega. Apokalypse für Anfänger

148000語

「アルファ&オメガ」 副題は黙示録入門、みたいな感じか。
アルファにしてオメガ、黙示録、というわけで、この世の終末と救世主の物語、というか、そのパロディ。
作者はとくにSF作家というわけでもないようだ。

本の紹介文はこんな感じ:
突如ネバダに出現したブラックホール。物理学者が作ってしまった。さあ、どうする? Omegaならなんとかしてくれるかもしれない。なんといっても三分割脳を持った最初の人間、すばらしい念動力の持ち主だからだ。そこに加わるのは彼女の兄Alphaと奇妙なヒーローたち・・・。そして、それを物語るのは、2525年からタイムトラベルしてきたElias Zimmermann・・・。

こんな紹介文だが、あらかじめ言っておくと、ブラックホールが出現して地球に危機が迫るのは物語もかなり終盤になってから。それまでは、かつての救世主イエス伝ならぬOmega伝、というか、Omegaをめぐるちょっとおかしな人間たちのドラマと思って読んだほうがいい。シリアスなSFではなく、笑いを前面に出した、地球の終末と救済にいたるまでの、騒がしくも壮大なドタバタ劇。

一言でいうと、とにかく饒舌。くだらないダジャレや皮肉や風刺を散りばめながら、素粒子論、超ひも理論を語ったかと思うと、ファッションモデルの世界やテニスのウィンブルドン大会、現代のパフォーマンス・アートを描き、ダライ・ラマ候補探しやら金を生み出す「信用」のからくりを語り、さらには顕微鏡的なニューロンの動きや脳死をライブ実況、そして、ブラックホールやらワームホール、裸の特異点を描写・・・などなど。とまあ、これでもかというくらいにアイディアたっぷり、饒舌に語りまくる。

プロローグは2525年。
誰も使わない図書館に迷い込んだ、この物語の語り手Elias Zimmermann。司書ロボットに彗星の衝突で地球が滅ぶまであと数十日と教えられる。が、ピンと来ない。この時代の人間は脳に細工をしているらしく、過去や未来のことを考えないからだ。それで司書ロボットに何とか言うピンを抜かれて、ようやく危機を感じ始めるElias Zimmermann。500年前に地球を救ったOmegaに関する本を読み漁り、興味が出てきたところで、司書ロボットにタイムマシンがあるのだと告げられる。Omegaに会いに行けば危機を回避する方法もわかるかもしれない、と。それで自分もOmegaみたいな地球を救うヒーローになれるかも、なんて思うEliasだが、このタイムマシンは利用者を廃人にしてきた代物。肉体を残して精神だけ過去に送るため、誰にも(自分自身にも)見えず、聞こえず、触れられない、そんな状態に耐えられなくなるというのだ。だが、司書ロボットが言うには、それは脳が三つしかなかった時代の話。四分割脳を持つ現代人は大丈夫だろうというので、やる気になるElias。ところが、Omegaが地球を危機から救った2021年あたりに行くつもりが、司書ロボットにだまされて、2000年に飛ばされてしまう。Omegaが世に現れた時から知ってもらわないと困るのだ、と。何十年も肉体なしなんて、地球より先に俺のほうが危機かも・・・。

こうして、Omega誕生(というか出現)の2000年に降り立つElias Zimmermannだが、それ以降Eliasが直接体験したことだけが物語られるわけではない。それ以前の、Omegaの養父母KoljaとBirte(Bitch)それぞれの生い立ちやなれそめ、養祖父Gustoの数々のおかしな行状なども、たっぷりとユーモラスに語られる。が、長くなるので省略。Omega出現以降のストーリー展開をごくごくかいつまんで紹介。

OmegaはKoljaとBirteの息子(Alpha)が生まれた病院にどこからともなく現れた赤ん坊で、なぜかKoljaになつき、Birteの母乳しか飲まない。それで二人が引き取ることに。と同時に、白いハスキー犬Escherが登場、いっしょに暮らすことになる。この犬、レントゲンを撮ると何も写らない、空っぽの謎の犬・・・。

Omegeは肌が黒い、髪の毛が一本も生えない赤ん坊。自分の娘の子育てすらしたことがない祖父Gustoが、赤ん坊を扱いかねて「排泄物の哲学」やら素粒子論を語りだすのを、Alphaといっしょに聞きながら育つ。大きくなり、モデルを目指すが、ある時自分に念力があることに気づく。それをウォーキングに利用、宙を浮かんでいるような美しい歩き方に見せる、なんてずるいことをする・・・。人類初の三分割脳の持ち主で、三番目の脳がブラックホールか、というトンデモ設定。超ひも理論のいうところのひもが肉眼で見えるという・・・。

そして、両親が飛行機事故で行方不明に。普段は口を開けば不謹慎な冗談が出てくる祖父Gustoも意気消沈。元気づけようと、念力でティッシュペーパーの箱を動かして見せる、けなげなOmegaだが、それでGustoの目がキラリ。カジノのルーレットに使える・・・。両親の捜索資金を稼ぐためだと言われ、協力してくれたらモデルのコンテストに出てもいいから、なんて甘い言葉に頷いてしまうOmega。さらにGustoは大奇術師Gustoniとして、超絶ジャグリングや空中浮遊のショー(みんなOmegaの力による)でアメリカ・ツアー・・・。

行方不明の両親、KoljaとBirteのほうは無人島生活を余儀なくされる。正確には二人っきりではなく、語り手Elias Zimmermannも含めた三人での生活だが、Eliasが曲者、肉体を持たないただの観察者に収まってはいない。Birteに欲情するが、体がないので苦しくて仕方がない。それでKoljaの体を乗っ取るという暴挙に出ていたのだった・・・。

家族以外にもOmegaに関わってくる人間たちがいる。
まずはTashi Tengrit。同性愛のチベット僧。次期のダライ・ラマ候補を探しにチベットから外界に降りてくる。Omegaがティッシュペーパーの箱を念力で動かすのを見て、これぞダライ・ラマの生まれ変わりだと思い込む・・・。

あとはパフォーマンス・アーティストのMatthias Schamp。海中でのサメを使ったパフォーマンスをきっかけに、行方不明のKoljaとBirteの発見される。謝礼がもらえるというので出かけて行って、Gustoと意気投合。最後のブラックホールとの戦いで活躍・・・?

地球の危機を招来する側の人物も紹介。
素粒子物理学者Sabrina Steward。Gustoが素粒子論やら超ひも理論やらに詳しいのはSabrinaに一目惚れしていたからだったりする。表はまじめな物理学者だが、タイムトラベルを実現したいという、他の物理学者には言えない欲望を抱いている。ブラックホールのそばは時間の進み方が遅くなるので、近くにとどまることができれば、タイムトラベルできる。それでブラックホールを作りたい・・・。

そして、このSabrinaに近づいて、ブラックホールを作らせようとする人物がBuzz Monster、世界一の金持ち。ドストエフスキーに感化されて、世界一の金持ちになって物乞いしてみたいと思うようになった人物。最初は慈善活動に励むものの、世界はいっこうによくならない。なら、いっそ破壊してしまえ、と極端に走る。それで、Sabrinaに接近、CERNのような施設を作り、ブラックホール生成に必要な素粒子衝突装置を提供する。

で、ブラックホール出現。Sabrinaはブラックホールに飲み込まれる。ブラックホールは最初は大きさを維持、そこに野次馬が群がり、ジェームズ・キャメロンがブラックホールを撮影、そのスポンサー(コカ・コーラかどこか)がCM効果を狙う。が、ついにブラックホールは膨張し始める・・・。

Gustoは愛するSabrinaが心配ですぐさまそこに向かおうとするが、Omegaはなんと協力を拒否、モデルのコンテストを選ぶという展開に、読んだ本と話が違うじゃないかとElias。このままでは地球は滅亡じゃないか。

でも、最後はブラックホールは消滅、地球は救われるが、その鍵となるのはElias Zimmermann本人なのだった・・・。

と、あらすじを書いてみたが、この本をおもしろくしているのは、語り手を含めた登場人物たちが作り出す個々のエピソードやシチュエーションを、あるときは意表をつく視点から、また、いろいろな話題をぶち込みつつ、アイディア豊かに縦横に語り尽くす、その語りの巧みさのほう。


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2014年10月18日 (土)

ドイツ語多読本:Claudia Kern: Homo Sapiens 404 Band 2: Mit dieser Waffe

Homo Sapiens 404シリーズ、第2巻。ストーリーの背景は第1巻の記事参照。

Omegaと呼ばれる災厄(死ぬとゾンビ化するウィルスに地球が襲われる)以降、宇宙を放浪するハメになった人間の物語。

前巻では、難破宇宙船T.S.Eliotに乗り込んでいったものの、そこはゾンビの巣窟だった・・・という話だったが、この巻で描かれるのは、T.S.Eliotの生き残りAucklandとともに、ある宇宙ステーションに行く、かつてのMishima号のメンバーたちの様子。


Koboのepub版(日本のアマゾンにKindle版はない)
Homo Sapiens 404 Band 2: Mit dieser Waffe
Homosapiens404_02

19000語

T.S.Eliotの生き残りAucklandは、Mishimaの乗組員たちをどこか宇宙ステーションまで連れて行ってやろうというのだが、なぜか一番近い所ではなく、ちょっと離れた、「動物園」とも呼ばれる場所に向かう。(人間はゾンビ・ウィルスのため、星そのものに住むことが許されないらしい)

「動物園」と呼ばれるのは、そこで暮らしているのがJockeyたちだから。Jockeyというのはサメやらトカゲやらオオカミやらの動物の背中に乗っている連中、それもチューブで動物とつながっている。本人たちは「共生」というが、「寄生」じゃないかという陰口も存在する。

で、主人公の元Mishimaのクルーたちはこのステーションで職探し。その様子がとともに、人間が安い賃金で働かされ、ステーション最下層の劣悪な環境で暮らしていることがあきらかになっていく。

そこにはJockeyに対する人間の憤懣があり、暴動を画策するグループも存在する。そこへ一時間以内に居住地を退去しろなんて命令が出て、大騒ぎ。そこに巻き込まれる元Mishimaのクルーたち。時間内に脱出できないと、エアロックから宇宙に放り出されてしまう・・・。


第1巻はゾンビからどうやって逃れるかという話で終わったようなものだが、この巻では人間が置かれている状況が少しずつ見えてくる。
やはり気になるのはAucklandの正体だが、まだよくわからない。先はまだ長いし。

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