カテゴリー「スリラー」の記事

2014年12月 9日 (火)

ドイツ語多読本:Wulf Dorn: Mein böses Herz

ヤング・アダルト向けサイコ・スリラーといったところか。

そろそろ本格的に長編小説にも挑戦してみたい、という人にはよさそう。文章は平易で、ストーリーもサスペンスの緊張感があって、楽に読み進められるはず。

Wulf Dorn: Mein böses Herz

86000語

母親と二人、田舎町に引っ越してきた16歳の女の子Doro。心機一転、新しい生活を始めよう、というのだが、1歳半の弟の死をきっかけに両親は離婚、Doroは弟の幻を見たり、幻聴を聞いたりするようになって入院・・・そんな過去からの決別を意図してのこと。

だが、事件は起こる。引っ越してすぐ、Doroは家の庭で、痩せ衰え、何かに怯えた様子の少年を発見、警察に連絡するが、警察が来たときには少年は消えている。警察も母親も、隣の家に住むDoroのカウンセラーも、少年の存在を信じない。幻覚でも見たのだろう、今でもカウンセリングが必要な状態なわけだし・・・というわけ。

唯一その少年探しを手伝ってくれたのが、カウンセラーの息子のJulian。それはDoroにとって少し救いになるのだが、すぐにまた驚きの事実が判明。Julianがやっているバンドのポスターに問題の少年が写っているのを発見。そして、その少年は先日自殺したというのだ・・・。

Doroは本当に少年を見たのか、それとも幻覚を見たのか?
もちろんDoroは少年の存在を証明しようとする。それは自分が狂っていないことを(自分自身に対しても)証明するための戦いでもあるからだ。

その過程でDoroはまた幻覚や幻聴に悩まされることになる。弟の幻や昆虫の眼をした少女などが現実と地続きに現れてくるので、今は現実なのか幻覚なのか、いつ幻覚の世界に入り込んだのかわからない緊張感がある。

少年探しの行方も気になるが、気になることはまだある。それがストーリーのもうひとつの焦点。
弟が死んだ時、家に両親はおらず、Doroは弟の子守をしていた。そして、その時の記憶を失っている。つまり、自分は弟を殺したのはないか?

そして、少年探しの進展とともに、その時の記憶が少しずつ蘇ってくる・・・。

そんな感じのストーリー。長いが、勢いに乗ってしまえば、飽きずに読めると思う。

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2014年5月22日 (木)

ドイツ語多読本:Peter Huth: Berlin Requiem

現代のベルリンを舞台にしたゾンビもの。

ひょっとしたら純粋なゾンビ・ファンは「ちょっと違う」と思うかもしれない。政治スリラー、社会批判的要素をたぶんに含んでいるので。逆に、ゾンビにとくに興味がない人も楽しんで読めそう。


Peter Huth: Berlin Requiem

75000語

謎のラザロ・ウィルスに感染すると、昏睡の後、目覚めると心臓も止まり、体温もないのに起き上がり、人間を襲いだす。ゾンビ化するのだ。そして、そいつに噛まれたものは感染する。このゾンビ病がベルリンに発生。なぜか、移民、その子孫にあたる人間にしか感染しないという・・・。

というわけで、外国人の多い地区、Kreuzberg、Neuköllnは封鎖される。実際に壁が築かれ、塔から銃で近づいてくるゾンビを撃つ警官。その一人が愚かにも壁の向こう側へ行ってしまう。当然、一人で対処しきれるわけもなく、ゾンビに噛まれてしまう。

それで、そんな事態に対する政治家、メディアの動き方が、この小説の一つの焦点。
社会の外国人嫌悪、排外的な気分を政治的に利用しようとしてか、この感染は「トルコ人の遺伝子」によるものだ、などとテレビのトークショーで公言する政治家Sentheim。そのトークショーの女性キャスターSarahはそれを聞いて激怒。それもそのはず、Sarahはトルコ系のドイツ人。

その後、Sarahは家族の消息を確認するために、封鎖地域にひそかに入り込む。Sentheimは、壁の向こうへ一人で行ったバカな警官を英雄化したい人々の気分を利用する。その家族を訪ねて行って、その息子に「お父さんの遺体はかならず取り戻す」などと語る場面をテレビ放送させる。それで、ゾンビどもに復讐だとばかり盛り上がって、壁を壊して封鎖地区に乗り込んでいく人間たち。

彼らは自分は移民ではないから、自分たちは感染しないと思っている。だが、実はそうではない。その情報をジャーナリストのRobertが入手する。Sentheimにおそらく敵対している政治家がリーク映像をRobertに残して、ベルリンを逃げ出すのだ。その映像を放映すれば大スクープだが、テレビ局の上層にいるChristianはSentheimにすり寄っていて、RobertにSentheimに都合の悪いことは言うな、などと言ってきたばかり・・・。

SarahとRobertとChristianは昔三人でつるんでいて、三角関係にもなっていたりした、そういう仲。Robertはとにかくリーク映像をChristianに残して、Sarahを探しに封鎖地域に向かう・・・。

そんな展開。
ゾンビも怖いが、ゾンビに襲いかかっていく人間のほうも十分気持ち悪い。感染しないと思っていたとはいえ、もしゾンビが外国人ではなく同じドイツ人だったとしたら、あんなふうに狂躁的に銃やらバットやらを持ってゾンビに向かって行ったりする? そう考えてみると、外国人嫌悪・敵視みたいなものが根深くあるのだろうと推測できる。壁を壊して、ゾンビを壁の外に出したのは、愚かな人間自身。そして、移民以外にも感染するという事実を隠していた政治家。人間、怖いですね。
エピローグの政治家(さっさとベルリンを逃げ出したやつ)の言葉がまた白々しい。

後半、Robertが封鎖地域に入って、Sarahを探し、ラストの真相が明らかになるまでの展開は緊迫感があって、テンポよく読める。

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