カテゴリー「ファンタジー」の記事

2016年3月17日 (木)

ドイツ語多読本: Kai Meyer: Die Sturmkönige 2 - Wunschkrieg

空飛ぶ絨毯や魔人のジンなど、アラビアン・ナイト的な世界を舞台にした冒険ファンタジー、Sturmkönigeシリーズ第2巻。(第1巻は「ドイツ語多読本: Kai Meyer: Die Sturmkönige 1 - Dschinnland」参照)

第1巻の翻訳『魔人の地 嵐の王』 (創元推理文庫)の続きを一足先に。

Kai Meyer: Die Sturmkönige 2 - Wunschkrieg

94000語

無料で借りられる電子書籍版はOnleiheで。

魔力で動く機械仕掛けの象牙の馬が空を舞い、イフリートを探している・・・

そんな場面から始まる第2巻のタイトルは"Wunschkrieg"。
イフリートは魔人ジンの一種だが、第1巻で人間を襲ったり殺したり、奴隷化したりしていたジンとは別物。願いを叶えてくれるとされる存在。イフリートも象牙の馬も第1巻で登場していたものの、どういう意味があるのかよくわからなかった。が、第2巻でようやくその役割も見えてくる・・・。イフリートがかなえるはずの「願い」(Wunsch)をめぐる「戦い」(Krieg)というわけで、"Wunschkrieg"というタイトルのようだ。

第1巻ではイフリートにかぎらず、いろいろな事柄が謎のままで終わっていたが、全3巻の真ん中にあたるこの巻では、少しずつそれらの謎が明かされていく。52年前、魔術の暴走を止めようとして何が行われ、その結果この世界がどうなったのかなど、物語の根本的な動因が垣間見えてくるので、より興味を持って物語世界に入っていくことができる。

第1巻では、サマルカンドを出発して、ジンの跋扈する危険な砂漠をどうにかわたってバグダッドに到着するまで経緯が語られたが、第2巻でもストーリーは前巻同様、メインの3人の動向を中心に展開していく。

主人公のTarikは、第1巻の最後でバグダッドの宮殿から放り出されたが、恋人になったSabateaを救出しようと、空飛ぶ絨毯で宮殿に突入しようとするが、失敗。父の知り合いの商人に会い、イフリートの「第3の願い」の話を知る・・・。

一方のSabateaはというと、カリフ暗殺のためにバグダッドにやってきたという正体は実はもう見破られていて、さて彼女の運命やいかに・・・と思いきや、実はこのカリフ、魔術の力でどうにか命を保っているらしく、それが辛くて本当は死を望んでいるという予想外の展開・・・。そして、権力維持のためカリフに死なれたくない宮廷魔術師が登場。この宮廷魔術師がイフリート狩りを行なっている。その目的はイフリートの「第3の願い」・・・。

そして、残る3人目はTarikの弟、Junis。彼は「嵐の王」たち(第1巻で出てきた竜巻乗り)のやり方に反感を覚えつつも、彼らと行動を共にする。「嵐の王」たちが駆使する力の中心となっているJibrilという新しいキャラクターも登場、彼らはジンのバグダッド侵攻を阻止しようと、決戦を挑む・・・。

竜巻を駆使する嵐の王たちと怪物を操ってそれに対抗するジンの戦闘場面をはじめとするアクション・シーンは、第1巻同様、緊迫したスペクタルを生み出しているが、それよりも、主人公たちが住む世界の成り立ちが意表をついていたし、イフリートの「第3の願い」の話もちょっとファンタジーらしい発想でおもしろかった。

次の最終巻では、「第3の願い」を求めてバグダッドを旅立つ主人公たちが描かれるようだ。
上では触れていないが、回収されていない伏線もまだいろいろありそうだし、今後の展開が気になるところ。何かどんでん返し的なことがあるのか?


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2015年12月18日 (金)

ドイツ語多読本: Kai Meyer: Die Sturmkönige 1 - Dschinnland

翻訳が出ると聞いたので読んでみた。
Kai Meyerはすでに何冊も日本でも翻訳が出ている作家。若い人向けのファンタジーが訳されているが、これは大人向けのようだ。

空飛ぶ絨毯やジン(例の、下半身が煙みたいになっている魔人)なんかが出てくる世界を舞台にした冒険ファンタジーといったところか。
三部作とされているが、読んでみたところ、1冊でそれなりに話が完結しているというわけでもなく、ただの3巻で完結するうちの1冊目。

電子書籍の図書館Onleiheにもあるので、無料で借りられる。利用方法は以前書いたことがある

Kindle版
Kai Meyer: Die Sturmkönige - Dschinnland

87000語

ドイツ語の内容紹介はこんな感じ。女性視点の話のようになっている。適当にかいつまむと、
「Sabatea(主要登場人物の女性の名前)の秘密は血にある。それは恵みでもあり呪いでもある。支配者の宮殿という牢獄から抜けだした彼女が飛び込んだのは、『ワイルド・マジック』の地、そして、無法者Tarikの腕の中・・・。この男はドラゴンの毛を密輸するため、自然法則が成り立たない地を渡るのだ。二人は旅を共にし、その果てに現れる別世界・・・」

みたいな感じ。表紙も合わせて女性読者獲得を狙っているようだ。

昔出た本なので、表紙もいろいろ変わっているようだ。まるで印象が違う。
Dschinnland_cover01  Dschinnland_cover02


翻訳はつい最近出た。
本の中身をそのまま反映した表紙。
魔人の地 嵐の王 (創元推理文庫)

こっちの内容紹介:
「腕利きの絨毯乗りターリクは、絨毯競争の最中にひとりの女を助けた。太守の待女だというその女(Sabatea)は彼に、絨毯でサマルカンドを脱出し、カリフの治めるバグダッドに行ってほしいともちかける。だが絨毯に乗るのも町を出るのも死罪。そのうえ町の外に広がる砂漠には恐ろしい魔人がいる。いったんは断ったものの、仲が悪いとはいえたったひとりの弟が女の口車に乗せられてバグダッドに向かうのを知り、あわててあとを追う。」

こちらはTarikが主人公の話のように紹介している。こちらの内容紹介のほうが本の中身に即していると思うが、読み方は人それぞれ。
それにしても、ファンタジーは「創元推理文庫」に入るのか・・・。

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冒頭はいきなり空飛ぶ絨毯のスピード感あふれるレース場面から。乗るのはTarik。もともとはバグダッドとサマルカンド間の密輸を生業にしていたが、6年前に恋人のMaryamを砂漠で失ってからは、禁じられた絨毯レースと酒に溺れる日々。宮殿の番兵が放つ矢をかいくぐりながら絨毯を飛ばしていると、この6年前の事件で険悪な仲になっていた弟Junisに遭遇。冷酷に弟を追い落とすものの、途中Sabateaを拾い上げることになってしまう。仕方なくレースは断念。サマルカンド上空、絨毯の上でSabateaを一夜を過ごす。

それで、このSabateaがバグダッドへ連れて行け、という。サマルカンドの城壁の外、砂漠はジンが支配する危険な土地、人間は襲われ、殺される。密輸稼業から足を洗っているTarikは冷たく断るのだが、弟JunisがSabateaを連れてバグダッドに向かったと聞き、後を追うTarik・・・。

あとは、空飛ぶ絨毯でジンの跋扈する砂漠を渡る冒険がこの第1巻のメイン・ストーリー。
TarikはJunisとSabateaに追いつき、バグダッド行きに同行することになるが、もちろんジンに遭遇。弟と離れ離れになり、捉えられて洞窟の天井に吊り下げられた町(鳥怪人が作った町)に連れていかれ・・・。

そこでの噂では、ジンが人を殺さずに集めているのは、バグダット総攻撃のための道具にするためだ、なんてことも言われていて、何やら不穏な展開が待っている予感。

さらにTarikはジン貴族(Dschinnfürst、翻訳ではどう訳されているのかは知らない)の一人Narbennarr(安易に英語っぽくすると、スカー・フール)に再会。こいつが気持ち悪い。ばらばらの人間を切り貼りして自分の体にしている。だからジンなのに足がある。で、再会というのは6年前恋人のMaryamを失った時に出くわしたジンがこいつだからだ。そして、なんとこのNarbennarrがMaryamの居場所をTarikに尋ねる。Maryamは死んだのではなかったのか? それとも生きているのか、そしてなぜジンがMaryamに会いたがるのか・・・?

そして、本のタイトルにもなっているSturmkönige(これが翻訳のタイトルになっている「嵐の王」。ジンなどの怪物側のものかと思っていたら、まったく違った)も登場、さらにはSabateaが何者で何を目的にバグダッドを目指したのもあきらかになり・・・。

最後、ばらばらになったTarik、Sabatea、Junis、それぞれを待つ運命は? と次巻が気になる終わり方。


アラビアンナイト的な世界を舞台にしたファンタジーは日本ではあまりない? ひょっとしたらめずらしいのかもしれない。

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2015年1月27日 (火)

ドイツ語多読本:Bernd Perplies: Magierdämmerung 3. In den Abgrund

19世紀末を舞台に、飛行船や軍艦など当時の最新技術、第1巻からお馴染みのノーチラス号や、さらにはニコラ・テスラの想像上の技術に、魔術や「さまよえるオランダ人」の幽霊船などの空想を混ぜあわせ、派手な活劇に仕立てたMagierdämmerung3部作の最終巻。

第1巻 Magierdämmerung 1. Für die Krone
第2巻 Magierdämmerung 2. Gegen die Zeit

アトランティスに眠る魔力の源泉を解放し、強大な力を得て、ロンドンの魔術結社を牛耳ったWellingtonがふたたび目指すのは魔力の源泉。それを使ってイギリスを世界の支配者にするための兵器を作ろうというのだ。すべてはイギリス王室のため、というのがその大義名目。

それを阻止すべく、同じ場所を目指すJonathanやHolmesたち。第2巻で登場したバチカンの対魔術組織のエージェントもドイツの飛行船で目指す場所は同じ。さらにはこの巻ではアメリカから参戦する者もあり、そしていよいよ最終決戦。

Bernd Perplies: Magierdämmerung 3. In den Abgrund
Magierdaemmerung3

140,000語

前巻でようやくノーチラス号から脱出したHolmesたちは、運良くバチカンの女エージェントが乗る飛行船に拾い上げられる。そこではもちろんイギリス、ドイツ、イタリアと、おそらく対立している国同士の人間がいっしょになるわけで、最初は腹の探り合いがありつつも、なぜかいきなり翼竜に襲われる(魔術の源泉が解放されたための異変の一つ)など事件がありつつも・・・・、という展開。

イギリスに残った反Wellingtonの魔術結社の残党はというと、Wellingtonがすべてはイギリス王室の覇権のために動いているなら、イギリスの王室からそれをやめるように勧告する書状をもらい、Wellingtonに叩きつければいいだろう、という話になる。それでバッキンガム宮殿に向かう。そこでヴィクトリア女王のひ孫にあたるプリンセスが彼ら一行の姿を見て、声をかける。それは彼らが自分と同じような光を発しているからなのだが、プリンセスはそれが魔力の証であることを知らない・・・。

そして、第2巻でストーンヘンジで魔力の源泉を封印するための鍵を生成したJonathanとKendraの一行は、Kendraの祖父が遺した笛を吹いてみると幽霊船が出現。船長は「さまよえるオランダ人」と名乗る。それで、かつてのアトランティス大陸が隆起した島、魔力の源泉が噴き出している島へ向かうことになる。もちろんそこでも事件は発生・・・。

さらにアメリカ。第2巻で魔術の源泉を封印する鍵を生成する時に登場した源泉の番人の一人がメインの筋。彼も魔術の源泉に行こうと、まずはアメリカの東海岸を目指す。そしてアメリカの軍にも魔術関係の特殊部隊があって・・・。

そんな感じでWellington包囲網が作られていき、最終決戦へ・・・という盛り沢山な内容で、楽しませてくれる。

冒険活劇的な展開を楽しむ本。あまり人間的なドラマみたいなものは期待しないほうがいい。たとえば悪の親玉Wellingtonにしたところで、悪のすごみがあるかといえば、たいしてない。ただ「イギリスのため」という行動原理があるだけで、そこにいたるまでの経緯が語られるわけでもない。対するJonathanにしても、たまたま魔術の源泉を封印するのに必要な指輪を渡されただけの人間にすぎないが、何の葛藤もなく「人類のため」という名目だけで行動できてしまう。単純そのものとしか言いようがない。ストーリーを動かすための人形みたいな感じは残る。深く考えず楽しめばよいエンターテインメント小説。

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2014年12月29日 (月)

ドイツ語多読本:Bernd Perplies: Magierdämmerung 2. Gegen die Zeit

Magierdämmeung三部作、第2巻。

第1巻(「Magierdämmeung 1. Für die Krone」参照)を読んだのが1年半以上も前で、ちょっと内容も忘れているところもあるが、とにかく第2巻を読んでみた。

19世紀末、潜水艦ノーチラス号でアトランティス大陸にある魔術の泉の封印を解き、力を得たWellingtonが、ロンドンの魔術結社の主席魔術師を暗殺、権力を奪取、結社の新しい方向性に賛同しない魔術師たち(つまり主人公たち)を拘束・・・。そんな所で終わった第1巻の続き。


日本では売っていないので、ebook.deのepub版。Kindleでは読めないが、KoboならOK。

Bernd Perplies: Magierdämmerung 2. Gegen die Zeit
Magierdaemmerung2_2

115000語

紙の本 → アマゾン:Magierdämmerung 02. Gegen die Zeit

この巻では、Wellingtonの結社本部襲撃で捕まったJonathonやHolmsらの脱出工作と、難を逃れたRandolfとGrigoriらによる彼らの救出の試みがメインに描かれる。Wellingtonのほうは、第1巻で暗殺したDunholmが持っていた指輪を探して、今の持ち主Jonathonに刺客の魔術師ハンターを送る・・・。

第1巻から第3巻につながる流れで、おそらく重要なポイントがその指輪。その意味があきらかになる。そして、Kendraの祖父GilesがスコットランドからDunholmに会いに来た理由もようやく判明する・・・。

ストーリー的には第1巻より起伏も少なく、ちょっと中だるみぎみだが、前巻に続き"Wahrsicht"という独特の魔術の扱い方や、魔術師につきものの使い魔、カラスのNevermoreや幽霊猫のWatsonの活躍などのファンタジー要素も楽しく、また、潜水服と合体したハイブリッド人間Hyde-Whiteや、同じく機械と生体が合体してしまったノーチラス号といった技術と魔術のからみあいもおもしろい。そして、異変を察知したバチカンが反Wellington勢力と手を結ぶべく、飛行船(表紙のイラスト参照)でエージェントをロンドンに送るといった新展開もあり、第3巻が楽しみ。

どうやら決戦の地はアトランティス。全員そこに向かうようだ。


多読的には、児童書やヤングアダルト向けの本ばかりではもう飽きてきたという人向け。息の長い文も多く、少しむずかしめの本にチャレンジしてみたい人にはいいかもしれない。

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2014年11月 9日 (日)

ドイツ語多読本:Ann-Kathrin Karschnick: Phoenix - Tochter der Asche

Deutscher Phantastik Preisの2014年ベスト・ドイツ語長編受賞作。

スチーム・パンクの親戚なのか、テスラ・パンクというものがあるらしい。電気の直流・交流でエジソンと争ったとかいう、ニコラ・テスラ。スチーム・パンクが蒸気機関なら、こちらは電気ということ? たしかに、武器が「電流弾」(?)を発射するものだったりする、そんなレトロな未来が舞台。

1913年の「実験」で人口の3分の1を失ったヨーロッパ。その混乱から人間が何とか生きていける秩序をもたらしたのが、Saiwaloなる霊的存在。その技術的協力者がニコラ・テスラということらしい。が、ストーリーはその120年後の話。破局後の荒廃した雰囲気を残す舞台はハンブルク。主人公は20代半ばの女性の姿をしているが、フェニックス。そして、連続殺人事件の発生、事件の解明に乗り出す主人公、さらには、敵対する人間側の捜査官との確執、協力、恋愛感情・・・と、ファンタジーからミステリ、ロマンスまで色んな要素をぶち込んだストーリー。

日本のアマゾンには(まだ?)Kindle版がないので、Koboのepub版
Ann-Kathrin Karschnick: Phoenix - Tochter der Asche
Phoenix01

98000語

冒頭、ドローンに追われる主人公Tavi。最後は背中から翼を出して、ドローンを振り切る。Taviはフェニックなのだ。なぜ追われるのかというと、人間を悲惨に突き落とした120年前の「実験」は、デーモンとか妖魔とかフェニックスとか、そういう魔物が行ったものとされているからだ。彼らは「魂なきもの」と呼ばれ、Saiwaloにすべてを任せきった人間から、排除対象にされている。

魔物はオーラを発している。それは普通の人間には見えない。だが、たまに見える者がいて、そういう人はGeisterwächterになる。実はSaiwaloも人間の目には見えない。Saiwaloと人間をつなぐ役目をするのがGeisterwächter。フェニックスのTaviは不死で、何千年も生きているので、自分のオーラを抑える術を身につけている。それゆえ、人間に混じって暮らすことができる。さらには、Geisterwächterの素質を持った少年Nathanをこっそり育てている。見つかれば、NathanはSaiwaloの意志なき操り人形にされてしまうからだ。

そんなハンブルクで連続殺人事件が起こる。犠牲者はかつてTaviが命を救ったことがある人間たちばかり。不審に思ったTaviは犯人探しに乗り出す。そして、殺人事件を担当する捜査官がもう1人の主人公Leon。こちらは人間。Saiwaloに疑いを持つこともなく、魔物排除すべしの思想に凝り固まった、上昇志向の強い野心家。

同じ事件を追うわけだから、当然二人は出会うことになる。意気投合、一致協力して犯人を追う、みたいな話にはならないので、緊張感のある展開。二人は互いを利用し、あるいは陥れようとするからだ。その上、どこかでひかれ合い、それだけにまた反発する、というようなロマンス的展開も絡んでいく。

なぜ連続殺人犯はTaviに関わりのある人間ばかり狙うのか、その理由がわかったとき、犯人の次の標的もわかる。NathanかLeonか・・・。そこからクライマックスへ突入・・・。

ミステリ要素に引っ張られて、先を読み進めることができるので、読みやすいだろうと思う。ただ、3部作の1作目らしく、まだ不明の部分も多い。Saiwaloが何者で、何をしようとしているのかなど、まるで説明がないし、120年前の「実験」とやらの実態、真相も不明のまま。そのあたりは読んでいてもどかしいが、続巻を読めということなのだろう。

第2巻はすでに発売されているが、第3巻は未刊。

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2013年12月 6日 (金)

ドイツ語書籍:Walter Moers: Wilde Reise durch die Nacht

コミック作家で、小説Zamonienシリーズの作者Walter Moersが、ギュスターヴ・ドレの絵に物語をつけた小説。

Zamonienシリーズの記念すべき第1巻"Die 13½ Leben des Käpt’n Blaubär"と同時に電子書籍化された。怪物大百科とも言うべきZamonienシリーズでは自分で挿絵を描いているが、この"Wilde Reise durch die Nacht"は、21枚のドレの絵をそのまま使っている。

ギュスターヴ・ドレ(ウィキペディアの記事)と言えば、ドレの挿絵を使ったダンテの『神曲』や聖書、『ドン・キホーテ』や『失楽園』などの本が日本でも売られているから、見たことがある人も多いはず。
もっと絵を見たい人は、ここ(Zeno.orgのDoréのページ)へ行くと、たくさん見られる。

あとがきによると、Moersははじめドレの絵に着想を得た短編を書こうと思っていたが、『神曲』や聖書など元のコンテクストから引きはがして、絵だけを集めた画集を見ているうちに、長編小説になっていったそうだ。


Walter Moers: Wilde Reise durch die Nacht

39000語

主人公はギュスターヴ・ドレ自身、12歳。夜の海に乗り出す。
「シャム双生児竜巻」に遭遇、突っ切ろうとするものの、宙高く船は舞い上げられる。気がつくと船の上には死神がいる。とうぜん魂をいただきにやってきたわけだが、ギュスターヴは死にたくない。そこで賭けをすることになる。6つの課題をクリアしたら、助けてやろうと・・・。こうしてワイルドな夜の旅が始まる。

最初の課題は、ドラゴンから乙女を救い出すこと。これはもう子供の本にありがちな騎士の冒険だろうと思いきや、そう単純な話にならないのは、やはりWalter Moers。
ギュスターヴは怪物グリフィンの背に乗って、ドラゴンのいる島にやってくる。鎖につながれた乙女を発見、ドラゴンを倒す。ところが、それは乙女が飼っていたドラゴンだった・・・。それに島にはドラゴン加工工場まである・・・・。

と、こんな感じで、一筋縄ではいかない展開。

以下、課題だけあげておく。
第2の課題は、魔物の森を突っ切ること。ただし騒いで魔物に見つかるように。
 今度のお供は、ドン・キホーテのサンチョ・パンサならぬ、パンチョ・サンサ。
第3の課題は、6人の巨人の名前を言い当てること。
 これはなんだろう、ガリバーか何かからの着想?
第4の課題は、あらゆる怪物の中で最も恐ろしい怪物の歯を取ってくること。
 その怪物とは「時間」。
第5の課題は、自分自身に会うこと。
 タイムトラベルか? さらには、太陽系の創造も。もうSFか?
第6の課題は、月にいる死神のところまでやってくること。

と、ドレの絵からインスピレーションを得たといっても、奇想天外・荒唐無稽な怪物大百科のWalter Moersらしい物語。

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2013年9月14日 (土)

ドイツ語書籍:Zoran Drvenkar: Der letzte Engel: Band 1

前に児童書のDie tollkühnen Abenteuer von JanBenMaxDie tollkühnen Abenteuer von JanBenMaxを紹介したことがあるZoran Drvenkarの、今度は14歳以上向けとあるので、ヤングアダルト作品。

サスペンス・ファンタジー(?)といったらいいのか、最後の天使になった少年と、天使をめぐって暗躍する2つの組織の話。

Zoran Drvenkar: Der letzte Engel: Band 1

100,000語

ストーリーのラインは2つ。最後にそれが重なりあう。

1つは、Motte(16歳男子)が、明日目覚めたら君は死んでいる、なんてメールをもらう場面から始まる。
誰かのいたずらだろうと思いつつも、ずっと起きていたら目覚めもしないんだし、死なないじゃないか、なんて冗談半分に思いながら、やっぱり気味が悪いので徹夜を決心。でも、寝てしまう、というお決まりの展開。

で、目覚めると、背中から翼が生えている。えっと思って、親友のLarsを呼ぶ。さらに驚きが待っている。寝室のベッドに自分の死体が横たわっている・・・。

そして、Motteの死体を発見した父親。どこかに電話をして「あと3年あると言ってたじゃないか」なんて、謎なセリフ、そして、どういうわけかガソリンに火をつけて、家を焼く・・・。

天使のMotteは親友のLars以外には、姿が見えない。誰にも気づかれず、父親も行動も見ている。そして、自分の埋葬も。その間に、いろいろな回想が入る。自分の母親の失踪とか、Larsとの友情の話とか、祖父のこととか。で、それらはほとんど何かの伏線になっているので注意。


もう1つのストーリーラインは、Mona(10歳)とEsko(20代後半?)がフェリーを待っている場面から始まる(本当はこっちが本の冒頭部分)。なぜか幽霊の少女たちに道案内され、急かされている様子。

Monaは少女を8人集めた、なにやらいわくありげな施設で暮らしていたが、Monaに人の記憶を読む能力が発現する。Monaが触れた記憶に登場する女王Theiaの存在も気になるが、能力の発現とともに、なぜか施設は傭兵集団に襲われ、Monaと彼女の世話役の2人を残して全員殺される(それが幽霊の少女たちになる)。

施設を運営しているのは「ファミリー」と呼ばれる組織。2人はエジンバラにある組織の「資料館」に向かうが、そこも襲撃される・・・。

その襲撃の際に、MonaはEskoと出会う、というか連れてくるのだが、Eskoの力もあって、そこからも脱出、ベルリンを目指して、フェリーを待っている、というのが、本の冒頭部分。

で、Motteに死の予告メールを送ったのがMona。

天使って何? Motteが「最後の天使」というのはどういうこと? Monaは何者? 「ファミリー」って何? 「ファミリー」を襲撃しているのは何者? なぜ襲撃される? などなど、次々に疑問が湧いてくるのだが、なかなか答えてくれない焦らし展開。

まんまとその焦らしに引っかかれば、先が気になって仕方がないが、ちょっと焦らしが長いので、途中で投げ出したくなる人もいるかもしれない。なので、導入としてもう少しヒントを出しておくと、始まりは19世紀前半、翼の生えた、天使と見られる氷漬けの2体の死体が見つかったこと。その翼には不思議な力があって・・・・。

で、ファミリーはロシア皇帝の後ろ盾も得て、その骨を使って天使の復活をもくろむ。そして、天使復活は人類の危機につながる、と敵対するのが、もうひとつの組織の「兄弟団」。

それからずっと現代にいたるまで兄弟団はファミリーの施設を襲い、やっとすべて片付けたかと思ったところに、Monaのいる施設が見つかる・・・という流れ。

最後にようやくMonaはMotteに会う。えっ、それが終わりの始まりなのか?? というところで、次巻に続く。(ちょっと内容ばらしすぎ?)


YouTubeに上がっているPR動画

作者の書斎。元はKornmühle(製粉所。水車小屋か風車小屋か?)だったそうで、かなり雰囲気がある。

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2013年9月 1日 (日)

ドイツ語書籍:Ju Hohisch: Das Obsidianherz

ドイツ語の本の紹介はひさしぶりな気もする。
2009年のDeutscher Phantastik Preis、Bestes deutschsprachiges Romandebütを受賞。新人長編部門のベスト。

歴史アクションファンタジーロマンスって感じの本。

いつものように日本のアマゾンやKoboストアにはない。ドイツのネット書店から、Koboで読めるepbub版。DRMはついていないので、mobiに変換すればKindleでも読める。

Ju Hohisch: Das Obsidianherz
Obsidainherz

220,000語

魔術や魔物(吸血鬼やら神話的な怪物やら)が存在するファンタジーな世界だが、実際の19世紀半ばを舞台にしていて、魔物みたいなものの存在はあまり信じられなくなっている。

時は1865年、場所はルードヴィヒ2世が治めるバイエルン王国の首都ミュンヒェン、そのまたNymphenburger Hotelを舞台にした、3日間にわたる、ある文書の争奪戦。

イギリスから姿を消したその文書、何やら世界を支配する力があるらしく、取り戻すべくミュンヒェンに派遣されたのがメインキャラクターの一人Delacroix。バイエルン側はそれに二人の将校をつける。さらに、なぜかルードヴィヒ2世はオペラ歌手(女性)をチームに加える。

争奪戦というからには、文書を狙う勢力は他にもある。
一つはカトリック教会のある教団。異端審問の生き残りみたいなもので、人殺しもいとわないし、魔物みたいな存在は、神の秩序に反すると、排除する。

さらにハプスブルクからの独立を目指すハンガリー人も文書を狙って、吸血鬼に依頼する。そして、壁でもどこでもすり抜けて現れる影の怪物。もう一人いるが、それは本の後半もかなり進まないと、正体がわからない。

そこに絡んでくるというか、巻き込まれていくのが、女性側のメインキャラクターのCorrisande。いい縁談を探して、ミュンヒェンの社交界に食い込もうとしているのだが、実は犯罪組織のボスの娘で、自分でも泥棒できる。ミュンヒェンにも父親の配下の殺し屋がいたりする。でも、そんな世界から離れて、ふつうの結婚をしようとしているのだが、影の怪物に襲われて、文書争奪戦に巻き込まれていいく。一番散々な目に会う。

魔術や戦闘シーンももちろんあるが、舞台がホテルの中だけということもあり、特徴的なのは人間関係の絡みあい。たとえば、Delacroixと将校の一人がオペラ歌手のかつての愛人だったり、Delacroixはいま争っている教団にかつて属していたり。あとは、オペラ歌手と吸血鬼のロマンスやら、将校の一人がCorrisandeに惚れたりと、いろんな脇筋の展開もある。

あとは、章ごとに話の視点が変わるので、いろんな角度から出来事を眺めることになるし、スリリングな展開になる。たとえば、策略を仕掛ける側の人間の視点から語られるかと思うと、仕掛けられる人間の視点から語られる、といった具合。

そんなわけで、紙の本にして800ページと長いが、まあ飽きずに読めるのではないかと思う。

結末はロマンス小説的なのりかなあ(ロマンス小説読んだことないが、想像するに)。

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2013年6月20日 (木)

ドイツ語書籍:Olver Dierssen: Fledermausland

2010年Deutscher Phantastik Preis 、カテゴリーはドイツ国内ベスト・デビュー長編第1位の作品。

まあ、ヴァンパイアもの?
ファンタジーというか、反ファンタジーというか。ラストの盛り上がりの裁判シーン、主人公が愛を貫く感動場面だが、その舞台は都会の片隅のあやしげなピープショーの舞台の上だったりする、そんなファンタジーとは真逆の、コミカルな面を強く押し出した話。

Oliver Dierssen: Fledermausland

87000語

Sebastian、21歳は、Hannoverで大学に行っていると両親に嘘をついて、仕送りをもらいつつ、アジアン・ショップでバイトをして食いつないでいる。憧れの女性Kimが最近彼氏と別れたと聞いて、チャンスがめぐってきたと思っている。

そんなある日、コウモリが部屋に侵入。助けを求めて、消防署やらいろんなところに電話をかけては断られるというドタバタを演じた後、MADと称する救助員に助けられる。そこから奇妙なことが起こり始める。

念願のKimとのデートで出かけた映画館のトイレで、吸血鬼と称する男に襲われて、逆に仲良くなったり、ドモヴォーイ(東欧の家の精みたいなもの?)と称する男に部屋に居座られたり・・・・。
そして、Kimが突然、もう会うのはやめようと言い出し、姿を消し、Sebastian自身もおかしな連中に襲われたり。それで、Sebastianも、どうやら現実とは別の世界の何かに足を踏み入れてしまったらしいことに気づきはじめる・・・。

さて、Kimとの恋の行方は?的な興味を維持しつつも、Hannoverの町を舞台に、吸血鬼やらドワーフやらとSebastianの織りなす猥雑で滑稽な物語。

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2013年6月10日 (月)

ドイツ語書籍:Gesa Schwartz: Grim - Das Siegel des Feuers

2011年Deutscher Phantastik Preis 、カテゴリーはベスト・デビュー長編第1位の作品。

ガーゴイルのGrimを主人公にしたファンタジー。3巻まで出ているその1冊目。

日本のアマゾンにKindle版はない(ドイツのアマゾンにはあるが、日本から買えない)。だからいつものようにKoboでも読めるepub版。

Gesa Schwartz: Grim - Das Siegel des Feuers
Grim01

170,000語

ガーゴイルとかノームとかドラゴンとか吸血鬼とか、そんな怪物と人間は昔、共存していたが、人間との争いをきっかけに、怪物たちは人間に「忘却の魔法」をかけて、自分たちの存在、「異界」の存在を人間に知らせないようにしている。それは鉄の掟。人間は恐ろしい存在なのだ。

パリの地下にも「異界」はある。Grimはその掟の番人。あるとき、恩のある友人のガーゴイルが人間と接触して、何かを渡すところを目撃。あきらかに「異界」を危険にさらす行為。

いっぽうのその何かを受け取った人間Jakob。彼は「異界」の存在が見える。人間の中にはそういう者もたまにいて、妹のMIaも同じ。Jakobは受け取ったもの(サブタイトルの「炎の封印」がされた古文書)をMiaに預けて、異界の存在を教える。Jakobはその古文書を狙う異界の連中に追われ、殺されてしまい、当然、Miaも狙われることになる。Miaが人間の側の主人公といったポジション。

Jakobの最期を見取ったGrimは、当然Miaと出会うことになり・・・。

Grimははじめから人間は信用ならないと教え込まれているし、MiaはGrimを、兄を殺した怪物の仲間だと思っているが、古文書の謎を解くために協力、不信を乗り越え、次第に理解し合うようになる、なんて人間的なドラマもありながら、古文書はいったいなんなのかという謎あり、謎を解くために乗り越えなければならない苦難あり、はたまた、「異界」を襲うクーデターあり、その首謀者に狙われるMiaの危機あり、さらには、首謀者とGrimの因縁あり、そして、かつて「異界」と人間界を切り離す「忘却の魔法」を発動させるきっかけとなった、人間の王の登場あり、Grimの出生の秘密あり・・・・と、いろんなドラマが盛り沢山の異世界ファンタジー。

ちょっと長いけど。

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