カテゴリー「ドイツ語多読」の記事

2018年7月29日 (日)

ドイツ語多読本: Haruo Yamashita / Kazuo Iwamura : Abenteuer am Meer. Sieben kleine Maeuse gehen baden

今の季節にぴったりの海水浴の絵本。
ドイツの絵本は日本人とは別の感性で作られていて、その異国の雰囲気がおもしろみだったりするが、これはオリジナルは日本の絵本。日本人の感覚にぴったり、その心地よさがある。

Haruo Yamashita / Kazuo Iwamura : Abenteuer am Meer. Sieben kleine Maeuse gehen baden

429語

7匹の小ネズミの物語。
夏休みに入り、家族で海水浴へ。前日は浮き輪の用意をするお父さんのまわりでは、子供たちが地べたでクロールしたり、釣りの真似をしたりと、海水浴が楽しみで仕方がない様子。

そして当日、満員電車に揺られ、海に到着すると、すごい人混み。でも、ちょっとした入り江を発見。

お父さんは見張り台がわりの岩の上に陣取り、前日浮き輪に結びつけていた紐をつかんで、浮き輪で海に浮かんで遊んでいる子供たちが沖に流されないように監督。

ひとしきり遊んだら昼ごはん、そうするととうぜん眠くなって昼寝・・・。と、海水浴ではお馴染みの光景が、ほのぼのとした絵柄で生き生きと描かれていている。

ところが、寝ている間に潮が満ちてくる。見張り台の岩の上で寝ていたお父さんが海に取り残されてしまう。お父さんは泳げないのだ・・・。

そんな波乱もありながら、帰りの夕暮れの薄茜色の電車の中で居眠りするネズミたちの姿は本当に微笑ましい。

そんなごく当たり前のお話だが、海水浴の一日を描ききった感があって不思議と満足。

昼ごはんの笹の葉の上におにぎりというのは、ドイツ人にわかるのか? 口に入れているので食べ物だとはわかるだろうが。


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2018年7月22日 (日)

ドイツ語多読本: Chris Haughton: Pssst! Wir haben einen Vogel

静かに、という時は「シッ」と言ったりする。"Pst"。長く伸ばすと"Pssst!"。「シーッ」。

Chris Haughton: Pssst! Wir haben einen Vogel

104語

静かに、という時の身振りは日本と同じらしく、人差し指を立てて口の前に。
4人並んでいるが、大きくなるほど、顔も鼻も大きくなる、いかにも絵本のキャラクター、あるいは人形のような姿がコミカル。

なぜ「シーッ」なんてポーズをしているかというと、表題にもあるように鳥を捕まえようとしているからだ。一番小さいやつだけポーズを取っていないのは・・・。


背景のブルーからもわかるように時は夜、森の中。鳥を発見する4人組。「見ろ、鳥だ」。
だいたい一番小さいやつが間抜けなことをすることになっていて、「やあ、鳥さん」なんて声をかけてしまう。そこで残りの3人は「シーッ」。

抜き足、差し足、忍び足、とばかりに鳥に近づき、一番準備よし、二番準備よし、三番準備よし、と位置につく。そして「行け」と同時に飛びかかる。が、失敗。鳥はすました顔で逃げていく。

今度は木の高いところに鳥を発見。次は三番目に小さいやつが先頭になってチャレンジ。で、また一番小さいのが「やあ、鳥さん」・・・。

と、王道のパターン展開。それで、間抜けな一番小さいやつが最後は手柄を立てたりする、なんてのも児童書では王道の展開だなと思わせておいて、ひとひねり・・・気持ちよく予想を裏切ってくれる。ヒッチコックの「鳥」と言ったら言いすぎだろうが、連想してしまった。

話も絵もシンプルでわかりやすい。鳥に近づいて行く時、跳びかかろうとする時、失敗してぶつかりあったりする時など、それぞれの体の動きも見ていておもしろいし、絵で文もわかるはず。たとえば、schleichenという動詞は、鳥を捕まえようと近づいて行く時の脚の運び方なんだとわかる。そういう時どう体を動かすのかという感覚を通して言葉を知るべきであって、訳語で覚えようというのは心が貧しい。

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2018年7月16日 (月)

ドイツ語多読本: Tomoko Ohmura: Bette anstellen!

行列ができていると、先に何があるのか気になってしまう?

Tomoko Ohmura: Bette anstellen!

309語

最近、ソフトカバーの廉価版が出た。

鳥が「並んでください」と言っているが・・・?

カエルが「並んでください」と書いてある看板を見上げている。鳥が「ようこそ、列の最後についてください」と言うので、並んで見ると・・・

たくさんの動物たちが一列に並んでいる。ヤモリ、ネズミ、モグラ・・・と体が小さいものから順番に。それぞれおしゃべりしたり、待っている間に体操をしていたり、何で並んでいるのかわからないがとりあえず並んでみた、という様子の動物もいたりと様々。ページをめくると、動物は大きくなっていき、肉食獣の間で草食動物が震えていたり、待ちくたびれて大声を出すものもいたり、しりとりを始めたり、と総勢50種類の動物が登場(動物の下にそれぞれ名前が書かれているので、動物が覚えられる)。

ただ並んでいる動物を描いているだけの単純な話でありながら、長い行列によくある光景が展開されていて飽きさせない。それで、いったい何の行列なのか?? という絵本。
とりあえずヒントは、最後に出てくる動物が一番大きい、ということだが、それがみごとなアトラクションを披露する。

しりとりはドイツ語でWörterketteというのだと知った。言葉のチェーン。
単語の最後の音/文字ではなく、合成語の最後の単語を拾っていくもののようだ。絵本ではこんな感じ。
Kindergeburtstag - Geburtstagskuchen - Kuchenteig のようにつなげていく。

でも調べたら、単純に最後の文字を拾ってつなげていくやり方もあるようだ。
Elefant -  Tiger - Raupe みたいに。
こっちのほうが簡単。

あと音節を拾うのもあるようだが、これはすぐに行き詰まりそう。
Elefant - Fantasie - Siemens

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2018年7月 2日 (月)

ドイツ語多読本: Oliver Jeffers: STECKT

ひさしぶりにドイツ語絵本。

凧が木に引っかかってしまったら?
木に登って取ろうとする人もいるだろうが、この絵本のフロイド少年の場合は・・・?

Oliver Jeffers: STECKT

403語

STECKTの文字が文字通り木にsteckenしている表紙。

木に引っかかった凧を取ろうとして、このフロイド少年が考えたのは、片方の靴を脱ぎ、それを凧に向かって投げること。まあ、予想通りうまくいかない。そこでもう一方の靴を引っかかった靴に向かって投げる。それも引っかかる。それでネコのミッチを捕まえて、靴を狙って投げ上げる。そう、当然ネコも木に引っかかる・・・。

それでうんざりしたフロイド少年、もう終わりにしようと、はしごを脇にかかえて戻ってくる。そうそう、はじめからそうしていればよかったんだと思いつつページをめくると・・・

はしごを木に向かって投げるフロイド少年。

おいおい、それも投げるのかよと思わず突っ込みながら笑ってしまった。

その後はもう何かにとりつかれたかのように、次々といろんなものを木に投げていく。人の手で投げられるものから次第にエスカレートして、動物や人はおろか、人間には持ちあげられないもの、それ木より大きいだろ、というものまで投げていく。それはもうファンタジーだが、そんなありえないものが木にささっていく様子は、絵本ならではおもしろさ。

表紙はくすんだ緑色だが、本を開くとページによって背景の色が変わっていたりして意外とカラフル。絵柄はシンプルでコミカル、見やすい。話はシンプルなのでわかりやすいはず。


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2017年12月31日 (日)

ドイツ語多読本: Andreas Brandhorst: Omni

ドイツのSFの賞といえばクルト・ラスヴィッツ賞だが、その2017年のドイツ語長編部門受賞作。
Andreas Brandhorstは去年の"Das Schiff"に続き、2年連続受賞。

"Omniversum"と名付けられた宇宙を舞台にしたスペース・オペラ。
著者ホームページによると、"Omniversum"はシリーズ化するらしいが、それぞれ独立した1冊毎に完結した物語になるらしい。"Omni"はその幕開けにあたる巻。2冊めの"Das Arkonadia-Rätsel"も2017年に刊行済み。

時代は今からおよそ1万年後。タイトルの"Omni"とは、14ある超文明の連合体。このオムニの任務を実行すべく、銀河を旅してきたアウレーリウス、彼は地球人だが、オムニのテクノロジーで1万年も生きている。今回の任務は、パンドラ・マシンと呼ばれる、あるオムニ・アーティファクトを回収すること。強力な力を持つパンドラ・マシンが悪を企む者の手に落ちてはならない。そこに巻き込まれるのが、ヴィンツェント・フォレスターとツィノーバーの父娘。フォレスターはかつて汚い裏仕事もこなすエージェントをしていたが、そのしがらみでアウレーリウスを誘拐しなければならなくなる・・・。

Andreas Brandhorst: Omni

130,000語

父親と娘のコンビは珍しいと思うが、手に汗を握るストーリー展開。詳しく言えないが、フォレスターの思惑を超えるツィノーバーの行動あり、銀河の運命よりも娘の命を優先する父親魂ありと人間のドラマも熱いが、もちろんスペース・オペラらしくエキゾチックな星や宇宙の驚異の中で展開されるアクションも緊迫感があり、そして、本書冒頭にモットーとして掲げられているアーサー・C・クラークの「十分に進歩したテクノロジーは魔術と区別できない」を地で行くような、様々なオムニ・アーティファクトの驚異。ほとんどファンタジーで、そこまでできたら何でもありだなとも思えてくるが、エンターテイメントとしては十分にありだろう。
物語終盤、パンドラ・マシンを奪還できるか、敵の手に渡るかの瀬戸際のアウレーリウスのシーンは緊迫感があって、読み応えがあり。
そして、ラストはアウレーリウスのもう一つの任務があきらかになって、この巻は閉じられる。

本の最後に、この小説はアーシュラ・K・ル・グインとジョージ・ルーカスへのオマージュを含んでいると、著者の言葉がある。この本に出てくる通信デバイスの「アンシブル」はル・グインによるものだろうし、あと『スター・ウォーズ』でハン・ソロが閉じ込められる石版みたいなやつもでてくる。詳しい人ならもっと見つかるかもしれない。

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2017年12月10日 (日)

ドイツ語多読本: Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 3: Patronat

第1巻2017年ドイツSF大賞、ドイツ語ベスト長編受賞作"Die Welten der Skiir 1: Prinzipat"、第2巻"Die Welten der Skiir 2: Protektorat"に続く、第3巻完結編。


Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 3: Patronat

10,000語

第2巻のラスト、帝国からの自立を決断した地球政府の大胆な行動から1年後、地球全体が防壁で囲まれ、帝国から守られている。だが、その防壁にほころびが出始める。帝国の再侵入を許せば、厳しい粛清が始まるに違いない。そこで政府は「破壊者」に残っている主人公の一人エーダーとコンタクトを取ろうとする。向かうのはもちろん第1巻からお馴染みの面々・・・。

帝国は帝国で、「破壊者」計画の責任者の処断も終え、第2巻で発覚したもう一つの陰謀、帝国全住民の意識支配計画の調査に乗り出すのだが、こちらでも予断を許さないストーリー展開が待っている。

そして、第2巻ラストで正体を表した「破壊者」のマスターは、かつての超文明ハッタのもとに向かうべく「門」を建設、着々と準備を進める。「門」の向こうにあるものは・・・?

ハッタが何者かがあきらかになると同時に、帝国をゆるがした「破壊者」計画と意識支配計画の真の理由が判明、そもそもなぜスキイールが宇宙中からハッタ・アーティファクトを回収してきたのか、その理由も明確になる。同時に、スキイールだけでなく、地球を含めた帝国内の知的生命の成り立ちすら説明される・・・。

その説明に驚きを感じられるか、あるいは納得できるかどうかは別として、いくつもの筋を組み合わせ、重ね上げながら語られてきたストーリーの最大の動因、謎にもラストで説明がつくし、それぞれの筋も意外な展開を見せるので、飽きずに読み進められるのは確か。

ただ難点としては、同時に追わなければならない筋が多すぎるので(多い時は6、7もあるだろうか)、全体の筋を見失いやすいことか。主人公が一人や二人に絞られているわけではないので、どこに焦点を置いて読めばいいのか落ち着かないし、主人公たちがストーリーを動かすための単なる駒に見えてきたりもする。あとは、ようやくこの巻で正体を表わす超文明のハッタ人。登場人物の一人が"banal"と言っているが、卑小、と言って悪ければ、あまり人間的すぎて・・・。

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2017年11月12日 (日)

ドイツ語多読本: Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 2: Protektorat

2017年ドイツSF大賞、ドイツ語ベスト長編受賞作"Die Welten der Skiir 1: Prinzipat"に続き、第2巻、第3巻とようやく読み終えた。

その第2巻。

Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 2: Protektorat

110,000語

複数の登場人物のストーリーラインを次々に切り替えながら、少しずつ全体像を浮かび上がらせていく語り方はそのまま、第1巻で謎のまま残されていた部分をあきらかにしていきながらも、新たな謎を提示していく第2巻。新たなストーリーラインを担う人物が増えて、とくに最初は全体の関連がつかみにくいけれども、その後はすべてが解明される第3巻へと力強く導いていく。

地球を200年前に「庇護下」に入れたスキイール帝国はPatronat、Prinzipat、Protektoratの3組織のバランスの上に成り立つ。そのうちのPatronatが「破壊者」を使って権力掌握を画策、その陰謀に巻き込まれる主人公たち、そして、ついには「破壊者」がコントロールから逃れて、帝国の各文明の代表団が集まるステーションを襲撃・・。そんな第1巻の続き。

「破壊者」はステーションを破壊、主人公たちを拉致して姿を消す。圧倒的な力を持つ「破壊者」がいつどこで何をしでかすかわからない不安が広がる中、「破壊者」を作ったのはPatronatだという証拠が抵抗組織によって銀河中に公表され、帝国内部は大混乱、艦隊同士が戦闘に突入する内紛状態へ。そんな激動の中、主要人物たちにもそれぞれのドラマが待っている。

地球代表団の大使エーダーは、拉致された代表団メンバー解放を条件に、自分一人残って「破壊者」のスポークスマンになる。「破壊者」には意識があり、ただの破壊兵器ではない。だが、あいまいなほのめかしばかりで何をしようとしているのか明言しない・・・。

他の地球代表団の面々は惑星ペンドアに避難。だが、そこでスキイール内部にまた別の陰謀の臭いをかぎつける。さらに不可解な死亡事件が多発、惑星に異変・・・。

地球では、殺人事件から抵抗組織、謎のアーティファクトの存在に突き当たっていた捜査官マーケンゼンのストーリーが展開していく。その過程でマーケンゼン本人に関する驚くべき事実があきらかになる。
さらに、地球の大統領ディアスは帝国からの自由を目指す方向へ舵を切る。

抵抗組織のメンバーと行動をともにしているアマタ・カントのストーリーでは、スキイールであるにもかかわらず抵抗組織に協力しているらしい科学者クシイーンの指示で、抵抗組織のメンバーは地球に向かう。

と、それぞれの人物たちによる別々のストーリーラインが並行して進んでいくが、実はどのストーリーものは同じ一つのものを動因にしていると言ってもいい。それが第1巻で名前だけは出ていたハッタ。ハッタはスキイールが生まれる以前に存在していた超文明。そのアーティファクトをめぐって、帝国、抵抗組織、地球政府、「破壊者」がそれぞれの思惑を抱えながらドラマを作っていく。

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2017年8月20日 (日)

ドイツ語多読本: Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 1: Prinzipat

2017年ドイツSF大賞(Der Deutsche Science-Fiction-Preis)ドイツ語ベスト長編
Laudatio 2017 Bester deutschsprachiger Roman

三部作らしいが、むしろ、上・中・下の上巻という感じ。つまり、三部作なら一冊ごとにそれなりに話は完結していそうなものだが、いいところで次巻に続く、という終わり方をしている本作。まったく話は終わっていない。第2巻はもう出ているが、第3巻は今年の秋に出る予定。作品として完結していなくても賞を出すのか・・・という感じがしないでもない。

Dirk van den Boom: Die Welten der Skiir 1: Prinzipat

100,000語

地球が異星人スキイールに侵略・占領されて200年。地球は宇宙から隔離され、科学、技術、学問、情報など様々な制限が加えられ、文明のレベルは落とされている(たとえば飛行機にすら乗れない、ごく当たり前の治療薬もない)。その代わりにスキイールの保護下で平和な暮らしが保証されている。その地球に「目覚め」の時がやってきた。独り立ちする時期が来たとみなされたのだ。課されていた制限は撤廃され、スキイール帝国の他の種族との交易も可能になり、帝国集会に議席・投票権も得る。そこで帝国集会に地球からも代表団が送られることになる。だが、地球の「目覚め」を合図に、帝国内でひそかに計画されていた陰謀が実行に移される。そこに帝国に対する抵抗組織も絡んできて・・・。その激動の真っ只中に巻き込まれていく地球代表団のメンバーたち、そして、これからの地球の運命、向かうべき方向はいかに・・・というような話。

SF的なアイディアやロジックの妙というより、ストーリーで読ませるタイプの小説だろう。複数のストーリー・ラインを次々に切り替えながら、そこかしこに謎めいたほのめかしを残して緊張感を維持しつつ、意外な展開で読者を驚かせる。


以下もう少し詳しく。興味のある人向け。

昆虫型の異星人スキイールは宇宙の900もの文明を束ねる帝国の支配者。帝国は3つの組織によって支えられている。Protektorat(どう訳すべきか?)は帝国の領土拡大、防衛を担い、Patronatは占領地の「精神の浄化」(教化、思想教育)を担当する宗教的な組織、Prinzipatは現地の統治を担当(警察などはPrinzipatの所属)。3組織は協調しながら帝国を運営しているのではなく、競合関係にあるらしく、政治的駆け引きや策謀、主導権争いがある。それが帝国を揺るがす大事件につながっていく。

そんなスキイールの内部の政治は地球代表団にも反映されている。代表団のトップ、大使のフロークハート・エーダーはPrinzipatの所属(地球政府はPrinzipat)、Patronat所属のヨラーナは代表団の動きを監視し、さらには色仕掛けでエーダーを懐柔するようにも指示されている。エーダーの秘書ビクサ・リーは、帝国の全種族の7割は素手で殺せるという特殊訓練を受けているが、それを隠して代表団入り。後に彼女は抵抗組織に属していることがわかる。代表団は全部で4人、もう一人は学者のトルゲンだが、彼は地球を出発する直前、死体で発見される。

支配階級の権力争い、そこに絡んでくる抵抗組織の動き、それらに代表団、地球はどう関わっていくのかという政治ドラマの様相に、殺人事件の犯人探しというミステリ的展開も織り込んでくるプロット、そして、宇宙SFならではのスペクタル、圧倒な力で帝国にカタストロフをもたらす「破壊者」が出現する・・・。

構成は、章ごとに語りの視点となる人物を入れ替えながら(1人称ではない)、全体として一つの物語を紡いでいく形。エーダー視点の章の次にはビクサ・リー視点で物語が進められる、という具合。そういうふうにして代表団メンバーの動向が語られるのはもちろん、地球でトルゲン殺しを捜査するマーケンゼンの視点、陰謀の首謀者の視点、陰謀の証拠を偶然見つけてしまう貨物船の航海士アマータ・カントの視点など、複数のストーリー・ラインが次々に切り替わりながら語られていく。そのため展開は単調にならないが、話があちこちに飛ぶ印象はあるかもしれない。

とはいえ、どのストーリー・ラインも最後には予想外の事実、意外な展開があったりで、少なからず驚きが待っている。それは読んでのお楽しみ・・・なのだが、世界最長のSFシリーズで、知名度あるローダン以外、ドイツのSFに興味を持つ人がどれだけいるのやら。ローダンをおもしろいと思うなら、これも十分におもしろいと思うが・・。

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2017年8月13日 (日)

ドイツ語多読本: Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania

ローダンNEO第2巻、翻訳より一足先に。

電子書籍の原書はもちろん日本語版より安い。もちろん読むのは翻訳のほうが楽だけど。

Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania

40000語
表紙は第1巻に続き、宇宙船アエトロン? それとも艦載小型艇のほうか? 


翻訳は予約受付中(8/24発売)

日本語版の表紙は第1巻に続いて人物。たぶんアルコン人のトーラ。今後ヒロイン的な役割でも担うことになるのだろうか? 今のところ地球人など下等生物としか思っていないようだが。


この巻では、月から地球に戻ったローダンたちの動向、それと、第1巻と同じように、もう一つの話が並行して、交互に語られていく。

地球で病気の治療ができる、とアルコン人クレストを連れて、地球に戻ったローダン。ゴビ砂漠に着陸して、アルコンのテクノロジーを使って周囲にシールドを張る。そこを包囲し、爆撃する中国軍のBai Jun将軍。シールドは破れないものの、そこから出ることもできず、アルコン人クレストの病状は悪化していく・・・。

もう一つのストーリーは前巻で登場したアメリカ国土安全保障省のエージェント、アラン・マーカントの逃亡劇。地球に帰還するスターダストを撃ち落とそうとする国土安全保障省を裏切り、追われる身になったマーカント、逃げる途中で出会ったトラックの女運転手とのドラマがあり、スターダストがゴビ砂漠に着陸したニュースを知ると・・・。そして、ラストに第1巻のジョン・マーシャル、シドのストーリーにつながる人物が登場して、続きの展開が気になるところで第2巻終了。

日本語版第1巻の解説で、「次巻では"ローダン無双"が展開するはず、個人的には序盤最大の見せ場のひとつと思っている」とあったので期待して読んでみたが、いや、ローダンは砂漠でシールドにこもっているだけだったし・・・。ようやくラストで、周囲のジャミング装置を破壊、全世界に向けて大胆な宣言をしたので、大きなドラマ展開があるのは、この次の巻以降じゃなかろうか・・・。

それにしても、ローダンは、人間よりもはるかに文明が進んでいるアルコン人と堂々とわたり合って、巧みな駆け引きで地球への帰還も果たしたわけだが、考えてみれば、口八丁で相手の弱みにつけ込んでいるだけ(その超テクノロジーを使って協力してくれないと、クレストの病気は直せないぞ)とも言えなくもないな、今のところ。

次巻以降は読むとしたらもう翻訳でいいかな。ドイツ語で読むのは翻訳の出ていない本にしたいし。

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2017年8月10日 (木)

ドイツ語多読本: Perry Rhodan Neo 1: Sternenstaub

時代を2036年に移したペリー・ローダンの新シリーズ、Perry Rhodan NEOの翻訳が刊行開始されたので、記念に原書を読んでみた。

とりあえず第1期のVision Terrania編8冊の翻訳が7月から毎月1冊ずつ出るらしい。ドイツではNEOのほうもすで150冊以上出ていている。隔週で新しい巻が出るので、翻訳が追いつくことはないだろう。


Perry Rhodan Neo 1: Sternenstaub

48000語

オリジナルの『ペリー・ローダン』シリーズは知らないので、どこまでオリジナルをなぞっているのかよくわからないが、オリジナルへのオマージュでありつつも、新要素、新展開があるのだろう。

月面ステーションとの通信が途絶えたので、その救出に向かうローダンら4人の宇宙飛行士たち。だが、実は月で発見された未確認の人工物の調査が隠された目的。打ち上げ失敗続きの危なっかしいNOVAロケットで一か八かの出発をするスターダスト号、月に着いたと思ったら、いきなり攻撃を受け不時着、攻撃の出どころにたどり着くと例の人工物、超テクノロジーを持った異星人との交渉に臨むローダン・・・と、ハラハラドキドキの展開。おまけに、超テクノロジーを持った異星人への恐怖、またその技術によって力のバランスが崩れる懸念を抱いた、アメリカをはじめとする大国の思惑も絡んできて・・・。まあ、とにかくローダン大活躍。

そんなローダン側のストーリーとは別に、もうひとつ地球での話があって、ローダン側の話と交互に語られていく。それはストリート・チルドレンを保護する施設の話。施設の責任者のジョン・マーシャル視点から描かれる。施設で暮らすシド少年とスターダスト号打ち上げを見る場面からはじまるが、このシド少年が奇妙な能力を持つらしく、その能力を使って資金難に陥った施設を救おうとしたために・・・という話。

この2つのストーリーがどう結びつくのかは、第1巻では不明のまま。でも、次の"Perry Rhodan Neo 2: Utopie Terrania"を読んでみたら、この巻の最後でようやくつながりが少し見えてきた。安心を。


翻訳はこちら

ドイツ語オリジナルの表紙は月で発見された異星人の宇宙船アエトロン号か。日本語訳はローダンの半身を正面から描いていて、対照的。

ドイツ語原文を読んだ感じと翻訳で違和感があるものかどうか、興味本位で翻訳も読んでみた。

翻訳は読みやすいと思ったが、ローダンと相棒のブルの言葉遣いが対等でないところには違和感があるかも。ブルはローダンに対して「です・ます」、ローダンはブルに対して「だ・である」で話しかける。アメリカ人だし、年は1歳しか違わず、テストパイロット時代からの親友らしいし、もっと対等な口のききかたをする感じで読んでいた。それとも、階級は少佐と大尉で違いがあり、ローダンは船長なので、身分の差を気にする日本人の感性にはそのほうがいいのか。

一文一文照らしあわせて読むなんて面倒なことはしていないが、読みやすさ・わかりやすさを考慮してか、少し変えている個所はありそう。
たとえば、冒頭部分は"Er lächelte ..."(「彼は笑顔を作った」)を何度も繰り返しているが、翻訳では繰り返しを省略している。原文はたぶんわざと繰り返してレトリック的な効果を狙っているのだと思うが、翻訳はそれより簡潔な表現を求めたのかもしれない。
また、細部のアイテムの変更っぽいものもあるようだ。スターダスト打ち上げの時にシドは自作の宇宙服を着ていけず、それっぽく見せようとしてかChromstreifen(クロームの金筋?テープ? ストライプ状ものの気がする)を上着にくっつけていたが、翻訳ではそれが金属のバッジになっていたりする。
とはいえ、物語の本質に関わらない細部だし、翻訳だけ読むならとくに違和感を感じることもないだろう。訳文は読みやすいと思ったが、感じ方には個人差があるだろうから、まあ人それぞれか。

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