ドイツ語多読本: Andreas Brandhorst: Omni
ドイツのSFの賞といえばクルト・ラスヴィッツ賞だが、その2017年のドイツ語長編部門受賞作。
Andreas Brandhorstは去年の"Das Schiff"に続き、2年連続受賞。
"Omniversum"と名付けられた宇宙を舞台にしたスペース・オペラ。
著者ホームページによると、"Omniversum"はシリーズ化するらしいが、それぞれ独立した1冊毎に完結した物語になるらしい。"Omni"はその幕開けにあたる巻。2冊めの"Das Arkonadia-Rätsel"も2017年に刊行済み。
時代は今からおよそ1万年後。タイトルの"Omni"とは、14ある超文明の連合体。このオムニの任務を実行すべく、銀河を旅してきたアウレーリウス、彼は地球人だが、オムニのテクノロジーで1万年も生きている。今回の任務は、パンドラ・マシンと呼ばれる、あるオムニ・アーティファクトを回収すること。強力な力を持つパンドラ・マシンが悪を企む者の手に落ちてはならない。そこに巻き込まれるのが、ヴィンツェント・フォレスターとツィノーバーの父娘。フォレスターはかつて汚い裏仕事もこなすエージェントをしていたが、そのしがらみでアウレーリウスを誘拐しなければならなくなる・・・。
Andreas Brandhorst: Omni
130,000語
父親と娘のコンビは珍しいと思うが、手に汗を握るストーリー展開。詳しく言えないが、フォレスターの思惑を超えるツィノーバーの行動あり、銀河の運命よりも娘の命を優先する父親魂ありと人間のドラマも熱いが、もちろんスペース・オペラらしくエキゾチックな星や宇宙の驚異の中で展開されるアクションも緊迫感があり、そして、本書冒頭にモットーとして掲げられているアーサー・C・クラークの「十分に進歩したテクノロジーは魔術と区別できない」を地で行くような、様々なオムニ・アーティファクトの驚異。ほとんどファンタジーで、そこまでできたら何でもありだなとも思えてくるが、エンターテイメントとしては十分にありだろう。
物語終盤、パンドラ・マシンを奪還できるか、敵の手に渡るかの瀬戸際のアウレーリウスのシーンは緊迫感があって、読み応えがあり。
そして、ラストはアウレーリウスのもう一つの任務があきらかになって、この巻は閉じられる。
本の最後に、この小説はアーシュラ・K・ル・グインとジョージ・ルーカスへのオマージュを含んでいると、著者の言葉がある。この本に出てくる通信デバイスの「アンシブル」はル・グインによるものだろうし、あと『スター・ウォーズ』でハン・ソロが閉じ込められる石版みたいなやつもでてくる。詳しい人ならもっと見つかるかもしれない。
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