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2016年11月 7日 (月)

ドイツ語多読本: Michael Römling: Schattenspieler

1945年春のベルリン、まだ戦火も残るなか、やがて連合国がベルリンを分割統治していく、そんな歴史的背景を細かく描きながらも、ナチスが略奪した美術品を探すというエンターテイメント性も忘れない中高生向けの小説。

Michael Römling: Schattenspieler

70000語

1945年春のベルリン、無残に破壊された街を眺めながら、ゲッペルスのヒトラーの誕生日を祝うラジオ演説を聞く少年Leoと、もう一人は大人のWilhelm。二人は空疎な演説を冷笑する・・・。
そんな冒頭の場面だが、それもそもはず、Leoはユダヤ人で、戦争の間ずっと身を隠して生きてきたからで、WilhelmはそのLeoを助けてきた人間(この本の「あとがき」によると、ベルリンだけでそんなユダヤ人は1400人ほどいたそうだ)。

そして、隠れ家にナチスが迫ろうかという時、ベルリンへの空爆も重なり、混乱の中Wilhelmの姿が見えなくなる・・・。
Wilhelmの生死もわからないまま、Leoはとにかく逃亡をはかる。その途中で目撃してしまうのが、ナチスの将校Sommerbierが二人の男を射殺する場面・・・。
その後Leoはソ連兵に拘束されてしまう。ドイツのスパイじゃないかと尋問を受ける・・・。

と、ハラハラする展開だが、小説は何度か視点を変えながら進んでいく。
その視点となる人物の一人が、Sommerbier。28個の箱を積んだトラックを走らせ、検問をいくつも抜け、追跡者も追い落とし、目的地で荷物を下ろしたら、口封じのために人を殺す。そして、イギリス軍のパイロットになりすまし・・・。
それがこの小説の悪役Sommerbier自身の視点から生々しく描かれるので、サスペンスを盛り上げる。

そして、もう一人の少年Friedrich。
こちらはナチスの高官の息子。父親はいわゆるローゼンベルク特捜隊に配属されていて、占領地で美術品の略奪にかかわっているらしい。こっそり家を抜けだした後、戻ってみると父親の訃報を聞かされる。

そして、Leoを捕まえたソ連軍の部隊がFriedrichの家を拠点にすることから、二人の少年はまったく違う境遇ながらも親しくなる。さらに、姿を消していたWilhelmとも再会でき・・・。
ローゼンベルク特捜隊が略奪した絵画コレクションをSommerbierがベルリンに隠したのではないかと推理、証拠を集めようとする・・・。

さらに、Leoを捕まえたソ連軍部隊の責任者も実はSommerbierを追っているらしく、イギリス軍も含めた、ナチスの財宝争奪戦の様相も・・・? そして、このSommerbier、意外な人物となってまた姿を表わすのだが・・・。

と、ストーリーは飽きさせない展開。が、それだけでなく、細部もしっかり描き込まれていて、興味深いエピソードもたくさんある。たとえば、道を歩いていると突然ソ連兵に徴用されて、爆弾で空いた地面の穴を埋める作業にをさせられる、なんてことは実際にあったことかもしれない。また、Leoが尋問される場面でLeo Goldsteinと名乗ると、これまでそう名乗る人間(ユダヤ人によくある名前)はドイツにはいなかったのに、急に誰もがLeo Goldsteinだと名乗りたがる、と皮肉が飛び出してくる場面も印象深い。

こういう細部もしっかり描き込みつつ、中高生向けらしくストーリーはしっかり楽しめるバランスのいい小説。

巻末にナチス関連の用語集があるので、先に目を通しておくとよい。各章は短いので、適度に息継ぎしながら読める感じ。


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