ドイツ語多読本: Ulrich Hub: An der Arche um Acht
ノアの箱舟のパロディ。
8歳以上対象の児童書。1万語程度あるので、少しドイツ語に慣れた人向き。大人も笑って読めるコメディ。
箱舟に8時に集合!!
Ulrich Hub: An der Arche um Acht
10000語
ペンギンが2匹、降っているのは雪ではなく、雨。洪水が迫っている。膨らんだトランクには実はもう一匹ペンギンが隠れている。というより、正確には気絶させられて詰め込まれている。ノアの箱舟と言えば、本来動物はつがいの2匹と決まっている。もう1匹の密航を企てるペンギン・・・。
地上のとある地方。どこを見回しても雪と氷、氷と雪、雪と氷・・・。もっとよく近づいてみると3匹のペンギンが見える。でも、近づきすぎてはいけない、魚臭いから・・・。そんな軽妙な語り口で始まる、3匹のペンギン(とノアの下働き、動物たちの監督役のハト)が繰り広げるコメディ。
3匹のペンギンのうち、チビのペンギンが状況を引っかき回し、笑いの種をまいていく役回り。
突然出現したチョウチョ(洪水の前触れか?)を見て、チビペンギンはなぜか「ぶち殺してやる」と言い出す。他のペンギンが「汝殺すなかれ」だぞと諌めるのは、あきらかに聖書のパロディ。
チビペンギン:「誰だ、そんなことを言うのは?」
他のペンギン:「神様だ」
チビペンギン:「ふーん、で、神様って誰?」
と、落語でいうなら与太郎的ポジションのチビペンギン。
他のペンギン:「神様っていうのはすごいんだ、周りを見てみろ、ここを作ったのも神様だぞ」
チビペンギン:(雪と氷しかないのを見て)「発想が貧困だったんだな」
簡略化すると、たとえばこんな調子。
だが、いろいろ責められているうちに「俺が悪いペンギンだっていうなら、そう作ったのも神様じゃないか」なんて独りごちるチビペンギン(本当はオスかメスかわからない)、最後には神に罰せられるぞ、天国に行けないぞと言われて、「神なんかいるもんか、そんなもの俺を怖がらせるためのでっち上げだ」と涙目でどこかへ行ってしまう・・・。
そこにやってくるのがノアの使いのハト。洪水があるから8時までに箱舟に来い、と。
地上の連中は喧嘩ばかりして、いくら言っても聞かないから、全部チャラにして一からやり直すために、神が洪水を起こす。ついては各動物2匹ずつノアの箱舟に乗せてやる・・・。
それでいそいそと荷造りをする2匹。一方は自分が品行方正だから選ばれたんだといい気になり、もう一方は自分が選ばれたのはただの偶然、ただもうラッキーだった喜ぶばかり・・・と考えることは対照的だが、最後には2匹ともチビペンギンを思い出してしまうのが気のいいところ。でも、チビペンギンをいきなり殴って気絶させて、トランクに詰め込むことはないと思うが・・・。
あとは、動物の監督役のハトの目をかいくぐって、どうやって箱舟にトランクを持ち込むか、また、箱舟の中で騒いでは、そのたびに怒鳴りこんでくるハトの目をどうやってごまかすか、その苦し紛れのドタバタを笑いながら読んでいくだけ。そのクライマックスはやはり、トランクにいるのは誰だと問い詰めるハトに、チビペンギンが中からなんと、「神だ」と答えるくだり。
「そんなこと信じられるか」とハトが言えば、「お前は神を信じないのか」と返すチビペンギン。
「神がトランクにいるわけない」とハトが言えば、「神は偏在するのだ、トランクの中にいて何がおかしい」と返す。
「お前が神だというなら証明しろ」とハト、「証明なしに信じる、それが神を信じることだ」・・・。
最後はボロを出してバレるけれども、口八丁とはこのこと。調子に乗って、今回の洪水はちょっとやり過ぎだったと、神の行為まで否定しだすチビペンギン・・・。
でも実は、登場キャラクターの誰一人として、神が起こす洪水を納得していないのがこの物語。ハトから洪水の話を聞いたペンギンたちの反応、「そんなことをしたら、みんな死んじゃうじゃないか」は素朴だが根本的な疑問。ノアの使いのハト自身も、人目か神の目をはばかってか、はっきりと口にしないだけだったりする。
最後はようやく陸地についた箱舟から降りていく動物たちの場面。ようやくノアも登場、ペンギンを見て、なぜペンギンを乗せたのだと聞く。ペンギンは泳げるじゃないかと。え、そういう問題なのか?なオチだが、それでもハトも一緒にラブ・アンド・ピースなラストシーン。
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