ドイツ語多読本: Rafik Schami: Der Wunderkasten
Rafik Schamiは日本語にも訳されている(読んだことはないけれども)。ダマスカス出身の作家らしい。この絵本もアラビアン・ナイト的なおとぎ話を語りながらも・・・。
Rafik Schami: Der Wunderkasten
3555語
この表紙に描かれているのがWunderkasten。子供が4人、ベンチに座って、光が入らないように手で覆いながらのぞき込んでいる。中には絵巻物が収められていて、それが右から左に巻きとられていく仕組み。お金を払うと絵巻物を見ながら話が聞けるが、話を聞くだけなら無料。
話はこのWunderkastenを背負ってダマスカスの路地にやってくるおじさんと、その呼び声を聞いて子供たちが集まってくる現実世界のパートと、Wunderkastenの中で展開するおとぎ話パートに分かれている。おとぎ話パートは絵巻物をそのまま再現して、その下に物語の文章がついている。
本の大部分は絵巻物のおとぎ話パートで、恋する羊飼いの物語。
井戸できれいな女性(Leila)が水瓶を持ち上げるのを助ける羊飼いのSami。(ひょっとしたらわざと)足を滑らせて、その拍子にに頬にキス。恋に落ちる二人。でも、Leilaの父親は娘を族長か何かの嫁にしようと考えている。当然、二人が会うのを禁じる。そこから波乱万丈の展開・・・。
絵は巻物の体裁なので、ヒツジを追うSamiと井戸でキスをするSamiがそのままつながって、同じページに描かれているのが特徴的。
ところがある日、盗賊団にLeilaが誘拐されてしまう。父親は娘を取り返してくれたら結婚させてやると約束する。ところが、というか予想通り、苦難の末Leila奪還に成功したSamiにいろいろ無理難題を出しては約束を反故にしようとする。ライオンの乳を持ってこいとか、持参金代わりにラクダ300頭持ってこい、とか・・。
ライオンの乳の話あたりからおとぎ話らしいファンタジーも入ってくる。ライオンと話ができたり、ライオンの背に乗って町に凱旋したり、またハトに姿を変えられたという女性が出てきたり、難題をクリアされてしまって、ついには自分の娘をトカゲに変えてしまおう(なぜSamiではなく自分の娘なんだ?)として父親は魔術師に依頼、それで魔人まで登場・・・。
もちろん最後は恋する二人の盛大な結婚式で絵巻物は終わる。
このおとぎ話パートだけでも十分に読み応えがあるが、まだ話は終わらない。
時とともに絵巻物は汚れ、かすれていく。これがどうなるかというと・・・。
そういう箇所に、Kolgataと書かれた(商品名らしい)歯磨きを持った女性の顔写真や赤い大きなオープンカーの写真が貼られていく。それで、ヒロインがKolgataに変わり、その父親はカー・ディーラーになっている・・・。こんなふうに、絵巻物の汚れて見えなくなった部分にコマーシャルの写真か何かがベタベタ貼られていって、話もますますメチャクチャになっていく。それで子供たちにも相手にされなくなっていく・・・。
これで美しい過去の伝統、おとぎ話、ファンタジーが社会の文明化とともにすたれ、消えていくという寓話になるのかと思いきや、まだ話は終わらない。
2年後またWunderkastenを背負ったおじさんがやって来る。Wunderkastenを覗いていた子供に話を聞くと、「すごい」と顔を輝かせる。それで自分も覗いてみると、そこにあるのはただの闇。そこに物語を語るおじさんの声が聞こえてきて・・・。
で、なにやら得意げな、と見えなくもないWunderkastenおじさんの顔がアップで描かれている。
おとぎ話やらファンタジーやらはそう簡単には消えないぞ、というメッセージなのかもしれない。
が、絵などなくても、というか、ないほうが物語は生き生きと迫ってくるんだ、というのなら、これは絵の意義を否定する絵本?
でも、今の人間だったら、覗いて何も見えなければ金返せとクレームを言って終わりそうな・・・。
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