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2015年3月25日 (水)

ドイツ語多読本:Cornelia Funke: Tintenherz

Tintenwelt-Trilogieの第1巻、"Tintenherz"。

直訳したら「インク世界」3部作の「インクの心」? これではタイトルとしてはちょっとどうか、というわけなのか、邦訳では『魔法の声』(と逆にあたりさわりないタイトル)。
12歳以上対象の児童書。

"Tintenherz"はこの小説内に登場する本の名前で、登場人物の悪の親玉のことを表す言葉。インクのように真っ黒な心ってことだが、ともあれこの本をめぐって、主人公の女の子Meggieとお父さんのMoが事件に巻き込まれていく、という話。

電子書籍版は日本のアマゾン、楽天では売っていないので、ドイツのストアからepub版。

Cornelia Funke: Tintenherz
Tintenherz

140,000語

ペーパーバック版(アマゾン)
Tintenherz


ある雨の夜、Meggieが父親のMoと二人で暮らす家にやってくるStaubfinger。Moとは昔なじみらしく、なぜかMoをZauberzunge(魔法の舌)と呼ぶ。Meggieは何かいやな予感する。あくる日、Moは突然Meggieの大叔母にあたるElinorのところへ行こうと言う。Elinorは大変な本のコレクター、Moの仕事は製本や本の修理で、そこで仕事をすることになったという・・・。

だが、本当の目的はある本("Tintenherz")を隠し、Capricornなる人の目から逃れること。

Capricornは目的のためなら何でもする冷酷非道な人物。"Tintenherz"とMoを執拗に追いかける理由がある。
Moには不思議な能力があって、本を声を出して朗読すると、その中の人や物を現実世界に呼び出せてしまう。実際、Capricornは捕まえたMoに『宝島』を朗読させて、金銀を出現させたりする。

また、Capricornが"Tintenherz"を探しているのは、焼き払ってしまうため。なぜか? Capricorn自身が、実はMoによって"Tintenherz"から呼び出された人物で、"Tintenherz"の本の中に戻りたくないからだ。

Staubfingerも元は"Tintenherz"の住人で、Moによってこちら側に連れてこられた人物。StaubfingerはCapricornとは反対に、"Tintenherz"に戻りたくて仕方がない。だから、"Tintenherz"を確保することが第一。そのためにはCabricornの側にもMo側にもつくように見える、ある意味複雑な人物。

そして、Moの力にはもうひとつ問題がある。本の世界から何かを呼び出すと、代わりに現実世界から何かが本の世界に行ってしまうのだ。そもそも朗読で何がこっちにやってきて、何が本の中に消えてしまうのか、予想できなかったりする・・・。

それで実は9年前にMoの妻、つまりMeggieのお母さんが"Tintenherz"の中に消えてしまったのだった。それゆえMoは、いつか妻を現実世界に連れ戻せると信じて、必死に"Tintenherz"を守ろうとする。

もうひとつこの小説を面白くしているのは、小説内の"Tintenherz"の作者を登場させていること。名前はFenoglio。自分が書いた小説の登場人物が実際に目の前に現れたら? なんて興味を抑えられず、事件に巻き込まれていく人物。

作者なので、たとえばStaubfingerが最後にどうなるかもすべて知っている(もちろん"Tintenherz"を読んだ人も)。だから、StaubfingerはFenoglioを敬遠するし、CapricornもFenoglioをあっさりと始末できなかったりする。が、この作者、最後に自分で書いた"Tintenherz"の中に飛ばされてしまったらしい・・・(その後の展開は次巻以降?)。

他にもアラビアン・ナイトの話から呼び出されたFarid(なぜかStaubfingerになつく)や、Capricornの手下のBastaやElsterなど気になる人物も登場して、物語を豊かにしていく。


ストーリーは、Elinorの家に身を隠したものの、Capricornに嗅ぎつけられ、Moは本といっしょに誘拐されてしまう、という展開。だが、実はその"Tintenherz"は偽物で、本物を持っていけばMoを取り戻せると考えたMeggieやElinorはStaubfingerとともに、Capricornのいる村へ向かうのだが、Staubfingerの裏切りで、全員Cabricornに捕まってしまう・・・。

ところが、Staubfingerは今度はCapricornを裏切り、Meggieたちを逃す。だがまた、今度はMoがいないときに、MeggieがFenoglioとともにCapricorn一味に誘拐されて・・・、と話は二転三転。

そして、MoはMeggieを取り戻そうとし、MeggieもFenoglioとともにCapricornの目論見を阻止しようとして迎えるクライマックス・・・と、飽きさせない展開。


児童書なので文章はさほどむずかしくなく、意外とすらすら読めるはずだが、ちょっと長いので読むには少し覚悟がいるかもしれない。

次巻以降は、"Tintenblut"、"Tintentod"と、タイトルにBlut(血)やTod(死)のような不吉な言葉がつくが、その後の展開はどうなるのか? 
(邦題では『魔法の文字』、『魔法の言葉』で原題のイメージは消えている。児童書のせいもあるのか)

翻訳はこれ
新装版 魔法の声


映画は日本では劇場未公開? DVDはある。アメリカの映画。英語に直訳した「インクハート」がそのままタイトルになっている。
インクハート/魔法の声 [DVD]

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