ドイツ語多読本:Barbara Wersba / Donna Diamond: Ein Weihnachtsgeschenk für Walter
表紙だけ見ると絵本かと思うが、絵本ではないし、とくに子供向けの本でもない、なぜか本が読める年老いたネズミに、こちらも老いた児童書作家の話。
日本のアマゾンにはKindle版がないので、Koboのepub版。
Barbara Wersba / Donna Diamond: Ein Weihnachtsgeschenk für Walter
10000語
とうぜん値段は高いが、ハードカバー版はアマゾンにもある: Ein Weihnachtsgeschenk für Walter
ネズミといっても、RatteとMaus(ラットとマウス)の違いがあって、この本のネズミはラットのほう。つまりはドブネズミなど、不潔で病気を運んでくると思われて、人間に嫌われている方のネズミ。マウスはハツカネズミみたいにペットにもなるようなネズミ。
母親が巣作りのために持ち込んだページの切れ端を目にしたら、なぜか読めてしまったというネズミのWalter。フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の一節だったという。自分の名前もウォルター・スコットにあやかって、自分でつけた。皮の装丁の立派な本だったから。ただ皮そのものはかじって食べてしまったが・・。
そんな高尚な文学まで読むWalterが今住んでいるのは児童書作家の女性の家。本がたくさんあるから、Walterにはうってつけ。この作家は人付き合いが嫌いな、偏屈者のようで、部屋の掃除はしないし、庭も荒れ放題。ただ、Walterとの共通点があって、どちらも年をとっていて、一人ぼっち・・・。
で、Walterは家の図書室で彼女の著書を見つける。なんとネズミを主人公にした話。007みたいな秘密エージェントのネズミが活躍する。だが、それはマウスの話。ラットの方が知性もあるのに、やはりラットは人間に嫌われている・・・。その上、本のカバーの著者紹介には、趣味は料理とガーデニングなんて書いてあって、二つとも嘘じゃないか!!
苦情を言おうと思うが、いきなり姿を表すと、叫び声を上げられたり、ネズミ殺しの薬を買いに走りだしたりするかもしれないので、手紙にする。が、いろいろ文面を考えてもいいものが浮かばず、けっきょく、
「Walterといいます
ここに住んでいます」
の2行だけの手紙になる。ところが、驚いたことに返事がある。
「知っている」
こんな素っ気ない手紙のやり取りから、Walterは姿を見せないまま、つかず離れずの関係で手紙のやり取りが始まり・・・、そんな感じの話。
マウスばかりでラットの話がないじゃないか、というWalterの問いかけに、いやラットの話だっていくつもある、といつになく多弁になるのは、やはりネズミの話を書く作家らしいし、もう歳だから読めない本をたくさん残して死んでしまうんだ、というWalterの嘆きには、私だって歳だけど・・・と言葉を返すあたり、人間嫌いで気難しい作家の方も心を開いてきているような・・・・。そしてクリスマスが近づき、Walterはプレゼントを用意する。そして、作家の方もWalterにプレゼントを用意していた・・・。
クリスマス・ストーリーなので温かい話だが、ベタベタしすぎず、何も言わずそっと寄り添うだけのラストもしみじみ。
イラストはどれもいいが、でもやはり本のページをのぞきこんでいるネズミの姿が一番チャーミング。
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