ドイツ語書籍:Hannes Stein: Der Komet
2014年のLaßwitz賞のノミネート作。
と思っていたら、今年のLasßwitz賞はもう決まったらしい。
ドイツ国内の長編部門は、Wolfgang Jeschkeの"Dschiheads"で、たまたま読んだことがある本だった。「ドイツ語書籍:Wolfgang Jeschke: Dschiheads」の記事参照。
で、話を戻して。
(日本のアマゾン、Koboストアでは売っていないので、ドイツの書店にリンク)
Hannes Stein: Der Komet
69000語
なにやらレトロなユートピア。
というのも、1914年サラエボでオーストリアの皇太子が暗殺されず、したがって第一次大戦は起こらず、それゆえまた第二次大戦もなく、冷戦もなく、その後の民族紛争もない、そんな20世紀の騒乱がまったく起こらなかった2000年前後のウィーンが舞台だからだ。一種の歴史改変もの。
つまり、ハプスブルク家のオーストリア・ハンガリー帝国がそのまま存続しているという話。
世界のメインストリームは君主制で、ウィーンが世界の中心。それでも月にロケットを飛ばし、基地を作るくらいの技術は発達している。ただしドイツが宇宙開発のトップ。アインシュタインは月面基地で死んだことになっていたり、アンネ・フランクがノーベル文学賞を取っていたり・・・。
ハプスブルク帝国といえば、20以上の民族を抱え、様々な言語・宗教を内に含みながら、広大な国を維持してきたところ。物語の舞台のウィーンもいろいろな民族や言語、宗教が混在。ナチスの蛮行もなかったことになっているので、ユダヤ人も暮らしている。
それで昔ながらのサロン文化みたいなものが残っているのか、そこで零落したロシア貴族の大学生がサロンのホスト役の女性に恋をし、その情事が描かれる一方で、「宮廷宇宙飛行士」の夫のほうは月へ行き、まもなく彗星が地球に衝突することを知る。地球の破滅・・・。
とはいっても、彗星衝突にどう対応して窮地を乗り切るか、そんなドラマが描かれるわけでもないし、地球滅亡を直前にしたパニックが描かれるわけでもない。上に挙げた大学生や宇宙飛行士が明確な主人公というわけでもなく、いろいろな人物が入れ代わり立ち代わり登場して、現在の様子が語られていく。カトリックの司祭、ユダヤ教のラビ、精神分析家、あるいは皇帝フランツ・ヨーゼフ2世・・・・。
したがって、主眼はストーリー展開にはなく、オーストリア・ハンガリー帝国の存続という架空の現在と、いま実際にわれわれが生きている現在との対比であるらしい。文中にいろいろ注がつけられていて、実際の歴史はこうだったという解説がついている。
ハプスブルク帝国や歴史に興味がある人、もし〇〇だったら歴史はこう変わっていた、なんて想像が好きな人にはおすすめ。
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