ドイツ語多読本:Peter Huth: Berlin Requiem
現代のベルリンを舞台にしたゾンビもの。
ひょっとしたら純粋なゾンビ・ファンは「ちょっと違う」と思うかもしれない。政治スリラー、社会批判的要素をたぶんに含んでいるので。逆に、ゾンビにとくに興味がない人も楽しんで読めそう。
Peter Huth: Berlin Requiem
75000語
謎のラザロ・ウィルスに感染すると、昏睡の後、目覚めると心臓も止まり、体温もないのに起き上がり、人間を襲いだす。ゾンビ化するのだ。そして、そいつに噛まれたものは感染する。このゾンビ病がベルリンに発生。なぜか、移民、その子孫にあたる人間にしか感染しないという・・・。
というわけで、外国人の多い地区、Kreuzberg、Neuköllnは封鎖される。実際に壁が築かれ、塔から銃で近づいてくるゾンビを撃つ警官。その一人が愚かにも壁の向こう側へ行ってしまう。当然、一人で対処しきれるわけもなく、ゾンビに噛まれてしまう。
それで、そんな事態に対する政治家、メディアの動き方が、この小説の一つの焦点。
社会の外国人嫌悪、排外的な気分を政治的に利用しようとしてか、この感染は「トルコ人の遺伝子」によるものだ、などとテレビのトークショーで公言する政治家Sentheim。そのトークショーの女性キャスターSarahはそれを聞いて激怒。それもそのはず、Sarahはトルコ系のドイツ人。
その後、Sarahは家族の消息を確認するために、封鎖地域にひそかに入り込む。Sentheimは、壁の向こうへ一人で行ったバカな警官を英雄化したい人々の気分を利用する。その家族を訪ねて行って、その息子に「お父さんの遺体はかならず取り戻す」などと語る場面をテレビ放送させる。それで、ゾンビどもに復讐だとばかり盛り上がって、壁を壊して封鎖地区に乗り込んでいく人間たち。
彼らは自分は移民ではないから、自分たちは感染しないと思っている。だが、実はそうではない。その情報をジャーナリストのRobertが入手する。Sentheimにおそらく敵対している政治家がリーク映像をRobertに残して、ベルリンを逃げ出すのだ。その映像を放映すれば大スクープだが、テレビ局の上層にいるChristianはSentheimにすり寄っていて、RobertにSentheimに都合の悪いことは言うな、などと言ってきたばかり・・・。
SarahとRobertとChristianは昔三人でつるんでいて、三角関係にもなっていたりした、そういう仲。Robertはとにかくリーク映像をChristianに残して、Sarahを探しに封鎖地域に向かう・・・。
そんな展開。
ゾンビも怖いが、ゾンビに襲いかかっていく人間のほうも十分気持ち悪い。感染しないと思っていたとはいえ、もしゾンビが外国人ではなく同じドイツ人だったとしたら、あんなふうに狂躁的に銃やらバットやらを持ってゾンビに向かって行ったりする? そう考えてみると、外国人嫌悪・敵視みたいなものが根深くあるのだろうと推測できる。壁を壊して、ゾンビを壁の外に出したのは、愚かな人間自身。そして、移民以外にも感染するという事実を隠していた政治家。人間、怖いですね。
エピローグの政治家(さっさとベルリンを逃げ出したやつ)の言葉がまた白々しい。
後半、Robertが封鎖地域に入って、Sarahを探し、ラストの真相が明らかになるまでの展開は緊迫感があって、テンポよく読める。
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