ドイツ語書籍:Daniel Kehlmann: F
ガウスとフンボルトを描いた"Die Vermessung der Welt"(翻訳は『世界の測量 ガウスとフンボルトの物語』は世界的ヒット作だそうだし、日本でも翻訳が何冊か出ているDaniel Kehlmann。読んだことがなかったので、とりあえず最新作を選んでみた。
日本では電子書籍版は売っていないので、ドイツの書店からepub版。
Daniel Kehlmann: F
70000語
3人の息子の物語。
父親のArthur Friedlandは作家で、本が売れなくてもまったく気にしないとうそぶく、よくわからない人間で、どういうわけだか、息子のMartinと、その異母兄弟の双子のEricとIwanの3人を催眠術ショーに連れていく。それが物語の始まり。で、自分は催眠術にはかからない人間だと言い張るArthurは、ショーで無理やり舞台に登らされる・・・。
催眠術のせいなのかどうかわからないが、ショーの後、父親は失踪し、話題作を発表。その本を読んで自殺者が続出するとか、そんな作品を書く作家になるのだが、物語は3人の息子の話に移行する。
Martinはカトリックの司祭になるが、まったく神を信じていない。信仰を求めつつも得られない苦悩が描かれるとかそんなことはない。信じていないのにただ司祭の役割を演じ続ける様子が語られる。
双子の一人Ericは投資コンサルタントになる。自分の会社だろうが、女性と見れば手を出さずにいられない。嘘でその場をごまかし続ける生活。それは仕事でも同じで、客から預かった資金の運用に失敗しても、なんとかその場しのぎの嘘でごまかそうとするが、ついにはごまかせなくなってくる・・・。
双子のもう一人のIwanは画家を目指すが、自分の才能に見切りをつける。で、Eulenböckという画家のもとで贋作を作る。つまり、Eulenböck公認のもと、自分の描いた絵をEulenböck作として売ることで、生活する・・・。
というふうに、3人とも嘘やペテンで生きているということらしい。
そして、2008年の夏の一日の出来事が三度語られる。つまり、Martin、Eric、Iwanそれぞれの視点から同じ出来事が語られる・・・。
あとは、その4年後のエピローグ。
さて、どう評価したものか。
三人の話はそれぞれおもしろく読める。が、全体としてみた時、何を目指しているんだろうなあ、この小説、という気持ちになる。
いろいろ深読みするのが好きな人にはいいかもしれない。”F"というタイトルだって小説の中で明確に説明されているわけではないし、作家の父親の存在も思わせぶりだし、冒頭の催眠術にしても、その後の父親や三人の息子に影響があったのかなかったのか、明確に語られるわけではない。そういうあえて語られない部分に「深み」みたいなものを感じ取りたい人にはきっといい小説なんだろう。
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